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» 2022年05月10日 07時08分 公開

DXの推進では、早期の段階から常識を捨て、非常識に挑戦することが重要――日本ゼオン デジタル統括推進部門長 脇坂康尋氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(1/2 ページ)

1950年の創業以来、独創的な技術により生み出される、世界に誇れる製品を提供し続けている日本ゼオン。顧客の夢の実現や快適な社会の実現に貢献するためのイノベーションとは。

[聞き手:浅田徹(ガートナージャパン), 文:山下竜大,ITmedia]
日本ゼオン デジタル統括推進部門長兼デジタルシステム管理部長(情報システム兼業務改革推進部長)脇坂康尋氏

 1950年、塩化ビニル樹脂を製造販売する会社として創業した日本ゼオン。1959年には、日本で初めて合成ゴム生産を開始。現在、ナフサに含まれるC4、C5留分から独自の技術で抽出した原料を利用して、エラストマー素材事業や高機能材料事業などのユニークな事業を展開している。同社の製品は、自動車、住宅、スマートフォン/タブレット、デジタルカメラ、液晶テレビ、医療用容器、ゴム手袋、化粧用パフ、シャンプー、香水、横断歩道のペイントなど、さまざまな分野で利用されている。

 これまで誰も手をつけていなかった分野やニッチといわれる分野で、世界初、世界ナンバーワンを目指し、多くの研究者が失敗して「無理だ」といわれていた分野にも果敢に挑戦。常に新しい可能性を切り開いてきた日本ゼオンのデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みについて、デジタル統括推進部門長兼デジタルシステム管理部長(情報システム兼業務改革推進部長)の脇坂康尋氏に、ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム リージョナルバイスプレジデントの浅田徹氏が話を聞いた。

入社3〜4年で現在のゼオンの中核となる事業に参画

――まずは、これまでのキャリアについてお聞かせください。

 大学卒業時に、就職したら事業に携わりたかったので、証券会社や商社など、事業系の会社を考えていました。しかし卒業研究で、国が初めて民間の寄付金を活用して実施した医薬合成の研究に参画したことから、メーカーで研究とは何かという本質を知ったうえで事業をやるのもいいと思い、研究員で入社できる会社を探しました。

 1992年というバブル崩壊直前の就職活動だったこと、わけあって人より4年遠回りをしたことから、就職活動には苦戦していました。そこで卒業名簿の「あ」行から順番に電話をして、ようやく日本ゼオンに入社することができました。

 4年遅れの新卒入社は自分だけだと思っていたのですが、入社してみると4〜5人いました。経歴も変わっている人が多く、当時の人事部長も変わった人材を求めていたようでした。新人ながら、十数個の研究所で構成される総合開発センターに配属され、ゼオン初のいろいろな研究に参画しました。

 3〜4年後には、現在のゼオンの中核となる事業にかかわったのですが、自分の仕事をしながら独自の研究もしていました。それが上司の目に留まり、3人の部下と新しい研究が始まり、1年後には十数名の部署になりました。まだ若かったのですが、大きな研究プロジェクトに関わることができました。

 このとき学んだのは、研究開発は1人でできることは限られており、社内のリソースも、経営層の理解も必要だということです。いろいろな人にコンタクトして、それぞれの考え方を聞き、ベクトルを合わせていくことが肝心です。新しい技術であればあるほど、違う質の仲間を意識して、サプライチェーン全体を動かすことが欠かせません。

――ビジネス上、最重要で取り組んでいる課題は何でしょうか。

 事業課題は、内向き、保守的、部門最適化で、会社の評価や裁量、責任などが成り立っている現状を変革することです。バブル期には世界に出ていった日本企業ですが、バブル崩壊後は保守的な側面から守りの経営が続きました。また部分最適化が進んでいましたが、全体最適化が必要です。現状、日本企業の多くは内向きですが、日本がじり貧に陥っている現在、変革においては外向きに変えることです。

――具体的には、どのような取り組みを進めていますか。

 2022年3月1日にアジャイル開発推進室を設置しました。いきなり全体最適化は無理なので、いろいろな人が、さまざまなプロジェクトに参画して、課題を持ち寄ることで、小さな成功を積み重ねるアジャイル開発を進めていきます。これにより少しずつ全体を見て、業務の流れを変えていくことで、トランスフォーメーションを進めています。

――内向き、保守的、部門最適化のマインドセットはどのように変えていくのでしょう。

 アジャイル開発推進室は、半分がキャリア採用で、半数が社内からの異動です。キャリア採用のメンバーは、比較的は外向きで挑戦的です。夢と意志を持って転職しているので全体最適化思想です。一方、社内からの異動メンバーは、どちらかというと保守的で、部分最適化思想の傾向がありますが、ナレッジの吸収、挑戦するなど、体験を積むことで変わっていきます。強い組織を作るには6〜7年かかるので、焦らず取り組んでいきます。

DXの最大のポイントは企業の文化と風土を変えること

――DXの推進にあたってはマインドセットの変革がとても重要です。脇坂さんの場合、入社後に取り組まれた研究開発の分野は、常に変革の繰り返しなので、現在取り組んでいるDXにあたっても、マインドセットは変わらず、単に分野が変わっただけという認識なのでしょうか。

 何かことを進める場合、DXでも、事業運営でも本質は同じです。例えば事業運営では、事業を既定路線で拡大することと、変革しながら拡大することでは意味が違います。MITスローン経営大学院で学ぶ機会があったのですが、既定路線の拡大は市場環境が変化していくので必ず衰退します。そこで早期の段階から常識を捨て、非常識に挑戦することが必要です。内部の反発も強いのですが、変革しながら事業を進める重要性は事業も、DXも同じです。

 ただしDXにおいては、気を付けるべきポイントがあります。DXという言葉の使い方は千差万別で、本当の意味での変革を描いている人は少ないのではないでしょうか。DXを、自動化/効率化、データ基盤の整備、既存事業の強化、ビジネスモデルの変革の4象限で考えていますが、現状ほとんどが自動化/効率化とデータ基盤の整備です。

 ビジネスモデルの変革を進めるには、企業の文化と風土を変えることが最大のポイントになります。変革とは何かを常に考えながら、それぞれの組織や個人の役割を変えていく必要があります。事業系出身だから、研究出身だから、IT出身だからということではなく、なにを変革するのかを考えればどこの出身でも変革はできます。

――当初は「AIを使って」とか「アナリティクスで」のように、テクノロジーの活用から取り組み始めても、最終的にはマインドセットや組織文化の在り方が重要だと気が付くCIOが増えています。

 ただし、いきなり「あなたのマインドセットは間違えています」といっても理解されず、反発を受けます。そこで、仕事の進め方にも戦略があります。自動化/効率化のニーズは高いので、そこでうまく満足させながら、変革を推進する部門では何を変革するかという本質をしっかりと共有しておきます。

 他部門との連携においては、仕事の進め方の戦略として、なにを表に出していくかが重要になります。どのようなマインドセットが必要かに正解はないので、コミュニケーションしながら、模索しながら進めていくことが大事です。

今後のIT部門はパッシブからアクティブへ変換を

――これまでの人生経験で記憶に残っていること、いまの仕事に影響を与えていることはありますか。

 中学3年のときに父親を亡くしたことは、人生においてもっともインパクトがありました。父親を亡くしたことで、家族の概念が変わり、自分自身が生きているということを実感し、「いまこのときを大切にする」「時間を大切にする」ことを優先するようになりました。仏教用語で「極めて短い時間」を意味する「刹那」の「那」に「美しい」という意味があるのも、そういう思いなのかもしれません。

 人との出会いも、どのような気持でこの場に来て、なにを思っているのかを考え、常に感謝の気持ちを持ち、いまこのときを大切にしています。こうした思いが、現在の仕事にも大きく影響しています。

――大切にしている信条、価値観、言葉などあればお聞かせください。

 自分の性分として、何事もゼロベースで考えます。例えばある業務に対し、なぜこの業務プロセスなのか、本当に必要なのか、不要ではないのかなど、ゼロから考えます。大切な時間をもっとも大事なことに割くためにはどうすればいいのか考えます。

 例えば、自社の研究所でしかできないことは何かを考えると全体の5分の1程度です。あとは外部の力を借りた方が効率的だし、効果的だと考えています。会社として人を採用し、育てるのは非常に労力がかかります。その人材には自社でしかできないことに集中してもらうことでより成長が期待できます。

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