DXの推進では、早期の段階から常識を捨て、非常識に挑戦することが重要――日本ゼオン デジタル統括推進部門長 脇坂康尋氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(2/2 ページ)

» 2022年05月10日 07時08分 公開
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 外部には、自社よりも優れた経験や、はるかに効率化できる場合もあり、アウトソーシングから学ぶこともできます。こうした考えは、これまでの研究所からすると非常識ですが、本当に大切なのは何かをゼロベースで考えるとコアに集中することができます。

――今後のIT部門は、どのようにあるべきとお考えでしょうか。どうすれば、縁の下の力持ちだけでなく、会社に貢献できるのでしょうか。

 パッシブ(受動的)からアクティブ(能動的)への変換です。IT部門やDX部門だけでビジョンを形成するのではなく、ほかの部門や経営トップも巻き込んで、会社のビジョンや方針を能動的に描くことができる、1+1を3にできるようになれば強いと思います。受け身だと1が0.5になることもあります。そのためには、会社の仕組みや文化も変えていかなければなりません。誤解されると困るのですが、縁の下の力持ちは必要です。それがあったうえでのアクティブ化が重要なのです。

 多くの企業のIT部門では、システムの実行部門は持っていますが、業務に関する実行部門を持っていません。裁量と権限がないので、リソース配分と実行の意思決定ができる人を集め、いろいろな課題を協議する会議体を作るなどの工夫が必要です。個別で話すときは総論ですが、実行は各論なので会議は荒れます。それはそれで、そういうものだと捉えればいいでしょう。これをスタートラインとして、粘り強く、楽しんで続けることです。

 個別にネゴした方が楽ですが、大変だけれどもステアリングコミッティを作って協議した方が実行機能として大きな成果を上げやすくなります。DXの推進においても、経営トップとの対話は非常に重要です。幸い日本ゼオンという会社は、そういう考えを大切にしてくれるので、経営トップの理解が得られやすい企業文化、風土があります。それが日本ゼオンの強みにもなっています。

 私自身コミュニケーションが好きなので、社内のいろいろな人と話をしますが、日本ゼオンには能動的に「ああしたい」「こうしたい」という人が多くいます。ただ口に出すと責任が伴うことから口に出せない人もいます。その意味での常識は、私にはありませんでした。「やった方がいい」と思ったことは、すぐに行動してしまうので、あちこちからたたかれます(笑)。ただしDXを推進する立場としては、嫌われる覚悟、たたかれる覚悟がなければ1+1を3にすることはできないと感じています。

――これからの人材に何を期待しますか。

 人生は1度きりなので、自分の人生を楽しんだり、いろいろなことに挑戦したりしてほしいと思っています。挑戦するためには学ぶことも必要だし、対話も大切です。社内だけでなく、社外の人、国内外の人も含めてコミュニケーション能力を高めてください。

 そして、最後には行動することです。これまでにたくさん後悔してきましたが、何もしない後悔より、なにかやった後悔の方が人生は充実します。もし、たたかれたとしても、きっと支えてくれる人、理解してくれる人も現れます。

記事を読んでいただきありがとうございました。日本ゼオンの脇坂様が読者の皆さまとの交流を希望されています。質問などあればこちらのメールアドレスにご連絡ください。

メールアドレス:wakizakaアットzeon.co.jp(送信する時にはアットを@に変更してください)


対談を終えて

脇坂さんのお話を伺って改めて感じたことは、デジタル化の推進には、脇坂さんのように、常識にとらわれず新しいことにチャレンジするマインドセットを持ったリーダーの存在がとても大切だということです。そうしたリーダーが、ビジネスへの貢献、経営層やビジネス部門の巻き込み、組織文化の変革といったポイントをしっかりと押さえて取り組むと、デジタル化は着実に進んでいきます。しかも脇坂さんは、こうしたマインドセットを持って、現在のITだけでなく、研究者やビジネスリーダーとしても、素晴らしい成果を挙げてこられました。今回の対談で、脇坂さんの、CIO/ITエグゼクティブとしてだけでなく、ビジネスパーソンとして一貫して持っておられるブレないマインドセットに触れ、そうしたマインドセットの背景の一端を教えていただいた気がしました。

プロフィール

浅田徹(Toru Asada)

ガートナージャパン エグゼクティブ プログラムリージョナルバイスプレジデント

2016年7月ガートナージャパン入社。エグゼクティブ プログラム エグゼクティブパートナーに就任。ガートナージャパン入社以前は、1987年日本銀行に入行し、同行にて、システム情報局、信用機構室、人事局等で勤務。システム情報局では、のべ約23年間、業務アプリケーション、システムインフラ、情報セキュリティなど、日銀のIT全般にわたり、企画・構築・運用に従事。とくに、日本経済の基幹決済システムを刷新した新日銀ネット構築プロジェクト(2010年〜2015年)では、チーフアーキテクトおよび開発課長として実開発作業を統括。2013年、日銀初のシステム技術担当参事役(CTO:Chief Technology Officer)に就任。日銀ITの中長期計画の策定にあたる。

2018年8月、エグゼクティブ プログラムの日本統括責任者に就任。

京都大学大学院(情報工学修士)および、カーネギーメロン大学大学院(ソフトウェア工学修士)を修了。


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