常に世界最高の技術をもって社会に貢献するために必要なIT戦略とは――JFEスチール 常務執行役員 新田哲氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(1/2 ページ)

継続的業務改革と先進的IT活用により、顧客基軸で価値を創造することを追及しているJFEスチール。市場の変化に迅速に対応できるグローバルレベルのIT活用先進企業を目指している。

» 2020年04月07日 07時05分 公開
JFEスチール 常務執行役員 新田哲氏

 2002年、川崎製鉄(川鉄)と日本鋼管(NKK)が統合して発足したJFEホールディングス。「常に世界最高の技術をもって社会に貢献します」という企業理念に基づき、鉄鋼事業、エンジニアリング事業、商事事業の3つの事業を展開しており、その中核事業である鉄鋼事業を担うのがJFEスチール。現在、年間約2700万トンもの鉄鋼を生産している。

 企業理念の「世界最高の技術」には、ITも含まれているが、同社は経済産業省と東京証券取引所が戦略的なIT活用に取り組む企業を選定する「攻めのIT経営銘柄」に5年連続で選定されている。2020年より「デジタルトランスフォーメーション銘柄2020」に変更されるが、6年連続の選出を目指している。

 JFEスチール 常務執行役員の新田哲氏に、これまでのキャリアや攻めのIT経営銘柄にも選ばれたIT戦略、IT人財育成などについて話を聞いた。

実家のお寺で受けた得度と水球部のキャプテンが原体験

――まずは、これまでのキャリアについてうかがえますか。

 1963年に生まれて、約6年間はドイツのデュッセルドルフで生活していました。中学2年のときに、滋賀県にある母の実家のお寺で得度を受け、これが原体験となっています。その影響もあり、好きな言葉は「照顧脚下」です。

 照顧脚下は、「履物をそろえなさい」という意味と理解している人が多いのですが、「自分自身をよく見つめ、過去に学びなさい」という意味です。お寺で朝昼晩の3回、お勤めをしていると、自然に自分を見つめなおすようになりました。

  また、水球部のキャプテンをしていた頃、ゲームをコントロールするために、全体を見ながら先を予測することの重要性を肌で感じていました。そうした経験が現在もいろいろな判断をするときに役立っています。

 大学を卒業して、1986年にNKKに入社し、最初に配属された情報システム部では、システムエンジニアとしてプログラミングも経験しました。約3年間、基幹システムの刷新プロジェクトに参加し、プロジェクトの進め方や重要なポイントなどを学びました。

――もともとエンジニア希望で入社したのですか。

 入社面接のときには、営業を希望していました。NKKを選んだのは、製造業でものづくりに携わりたかったからです。当時はバブル景気だったので、金融や証券などが人気でした。鉄鋼は不況だったので、まわりからは驚かれましたが素材産業は重要ですし、スケールの大きな仕事がしたかったのでNKKを選びました。

 情報システム部の次に配属されたのが、営業管理部門の中のシステム企画開発業務でした。そこでサプライチェーンや鉄鋼のWeb販売の仕組みなどのシステムの企画を担当しました。

――ビジネスユニットの中のIT部門という位置付けでしょうか。

 その通りです。現場の困りごとをITで解決するための仕組みを企画する仕事をしていました。次に、営業部門に異動になりました。3年余りでしたが、大手電機メーカー向けの鉄鋼販売を担当しました。

苦労はあったが、よかったのは上司や同僚・部下に恵まれたこと

――JFEスチールでは、IT部門のエンジニアから業務部門のシステム企画、業務部門の営業職というキャリアパスは一般的なのでしょうか。それとも、新田さんがパイオニアなのですか。

 当時は、あまり一般的ではなかったですが、以前より営業希望を出していたからだと思います。営業部門では、水を得た魚だったのですが、JFEスチールが誕生したことで、川鉄とNKKの基幹システムの統合が必要になりました。

 そのとき、営業とシステムの両方を経験していることから、基幹システム統合プロジェクト「J-Smile」に呼ばれました。システム統合では、どちらかのシステムをベースにするのが近道ですが、両社のいいとこ取りをするために新システムを作ることになりました。

――アナリストが相談されたときに「絶対やめた方がいい」という「いばらの道」を選んだわけですね

 システムの再構築そのものも苦労しましたが、両社がそれぞれに自分たちの現状のやり方をベースに考えてしまうため、その調整が非常に大変でした。このプロジェクトがIT改革推進部に変わり、SCMやCRMなどを導入して業務改革を進めました。その後、2014年にIT改革推進部の部長になり、セキュリティ組織であるJFE-SIRTもJFEホールディングスで立ち上げ、2018年より現職に就いています。

――いまの立場になるための理想的なキャリアを歩んでこられていますね。

 いろいろと苦労しましたがよかったのは、上司や同僚・部下に恵まれたことです。それがなければ、会社を辞めていたかもしれません(笑い)。

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