経営戦略とIT戦略はビジネスをドライブする両輪であり車軸となるのがDX戦略――モリタ 取締役 岡本智浩氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(1/2 ページ)

独創的な商品開発を、国内のみならず海外へも輸出することでグローバルに事業を展開。歯科医療の現場に高品質な商品・サービスを提供するモリタ。革新を生み出し、持続的な成長を実現するために積極的に取り組む同社のDX戦略とは。

» 2023年06月20日 07時05分 公開
モリタ 取締役 岡本智浩氏

 1916年に森田商店として創業し、1927年に国産初の歯科診療装置「A型ユニット」を発売したモリタ。1963年には、今やスタンダードとなった水平位診療チェアユニット「スペースライン」を世界で初めて発表。歯科業界に大きな革新をもたらした。現在は、歯科医療器械、器具、材料、情報機器などの歯科医療全般にわたるハードウェアの流通、歯科医療情報などのソフトウェアの紹介、歯科診療システム構築、歯科医院開業・経営などの支援業務を事業として展開している。

 同社の企業活動を支えているのが、「四恩」「進取」「紳商」という3つの精神であり、この精神が社員一人一人にしっかりと根づいている。「四恩」は、天地、国家、父母、衆生の4つの恩であり、モリタスピリッツの根幹となるもの。「進取」は、常に「もっとできることがないか」を問い続け、全ての活動においてたゆまぬ創意工夫を重ねること。「紳商」は「紳士の商人」に由来し、相手に信頼されることであり、そのための努力を惜しまないこと。

 モリタスピリッツに基づき、持続可能な本質的価値を持ち、革新的な変化を遂げるためのチャレンジにより、持続的な成長と革新を生み出すDXへの積極的な取り組みについて、取締役の岡本智浩氏に、ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム リージョナルバイスプレジデントの浅田徹氏が話を聞いた。

経営企画からIT企画まで「現場のたたき上げ」を実践

――まずは、これまでのキャリアについて聞かせてください。

 1985年に新卒でモリタに入社しました。最初に配属されたのは電算部で、のちに部署名が情報システム部に変わりました。電算部では、コンピュータを使った社内業務の効率化推進に約16年間従事しました。

 具体的には、業務の担当者に話を聞き、ベンダーと交渉しながらシステムを設計し、要件定義書や仕様書を作り、プログラムを書いてシステムを開発し、本番で動かすところまでの全てを自分でやっていました。経理システムの内製化では、業務内容を理解するために経理部の担当者に簿記を教えてもうところから始めました。輸入/輸出システムの開発を担当したときも、輸入/輸出部門に行って業務を勉強し、システム化を進めました。

 その後、上司から「得意とする情報システムの部分は置いておいて、新しいスキルとネットワークを構築するように」と言われ経営企画室に異動になりました。当時は30代前半だったので、自分が手掛けた得意な分野を置いていくのかという思いがありましたが、今となっては新しいスキルを身につけることができ、当時の上司に感謝しています。

 経営企画室では、情報システム部門と経営の在り方について学びました。経営戦略を実行するためには、情報システムは欠かせません。一方、情報システム部門がどうあるべきかを考える場合、経営戦略に基づいて考えることが必要です。経営戦略とIT戦略は、車の両輪ということです。

 その後、仕入れ部門に異動になり、さらに経営企画部門に戻るという経歴を経て、今に至ります。まさしく「現場のたたき上げ」を実践してきました。

――常に新しいことにチャレンジしてきたイメージがあります。こうしたチャレンジ精神は、どこから得られたものなのでしょうか。

 家庭環境か、友人関係かは分かりませんが、常に新しいことをやろうという考えは持っていました。モリタに入社してからは、会社の精神である「四恩、進取、紳商」を大事にしています。例えば、今やスタンダードとなった世界初の水平位診療チェアユニット「スペースライン」は、1963年にモリタが発表した製品で、それまで立ったままの診療が当たり前だった歯科業界に大きな革新をもたらしました。こうしたチャレンジ精神は、常に持ち続けたいと思っています。

何百回、何万回のテストも、たった1回の本番にはかなわない

――これまでの経験で、もっとも記憶に残っていること、今の仕事に影響を及ぼしていることについて聞かせてください。

 自動倉庫の仕組みを総入替したとき、当然ながら単体テストも結合テストも行って、問題がないことを確認したのですが、本番移行後にパフォーマンスが出ないという問題が発生し、朝一番に出るはずの納品書がお昼前になるなどのトラブルが発生しました。このとき、何百回、何万回のテストも、たった1回の本番にはかなわないことを悟りました。

 トラブルが発生した場合、もう少しチェックすれば防げたのではないか、あと何人かで確認すれば結果は違ったのではないかなど、チームでひざを交えて話をしています。昨日までの正解は、明日の正解ではないことを肝に銘じています。

――CIOで技術的なことまで分かる人はなかなかいないので、部下の方も安心なのではないでしょうか。

 これまで、BasicやCOBOL、C++など、いろいろと経験してきたので、開発に対して少し厳しくなることがあるかもしれません。また、あまりに距離が近すぎるので、敬遠されている可能性もあります(笑)。

――大切にしている信条、価値観、言葉などあれば聞かせてください。

 情報システムはツールの1つであり、それが目的ではありません。何かの目的を達成するための手段です。情報システム部門だけが頑張ればいい、使う人が理解すればいいというものではなく、自分たちでその仕組みを育てていき、何年かして環境に合わなくなったらみんなで刷新していくことが必要です。

 一緒に育てていくという思いになれば、バグなのか、仕様なのかといった血の通わない争いにはなりません。どちらかの責任になったところで問題は解決しません。そこで自分で仮説を立て、考えて行動する自律型の人間になりたいと行動してきました。また「楽しく仕事をしよう」も口癖です。

 せっかく同じ会社で働いているのですから、お互いが成長できるような関係を築ければより一層楽しく仕事ができると考えています。普段からシステム部門の担当者とビジネス部門の担当者が相談しながら、システムは自分たちが使うものだという認識で協力しています。

――ガートナーでは、ビジネス部門とシステム部門がそれぞれの強みを持ち寄り、ITでビジネスに貢献するフュージョンチームを提唱しています。一般的にフュージョンチームを作るのは容易ではありませんが、モリタでは違和感なくスムーズにできている気がします。

 まだまだやるべきことはたくさんあります。全ての担当者がデジタルを意識しているかといえばまだまだ温度差はあります。デジタルが得意、不得意もあります。ただ、今の若者たちはスマートフォンを持って生まれてきた世代なので、デジタルの活用度は以前とは全然違います。デジタル部門とビジネス部門は、より深く融合できると感じています。

――現在のビジネスにいてもっとも課題となっていること、その課題に対して取り組んでいることについて聞かせてください。

 最大の課題は、デジタル人材の育成です。外部から採用するのもありですが、モリタとしての価値観を理解したデジタル人材を育てることができれば最大の効果を発揮できます。現在は、全ての社員がデジタルで発想できる、エビデンスに基づいてものごとを考えることができる人材に育成するための取り組みを進めています。

 具体的には、2022年にDX推進室を立ち上げ、eラーニングとアセスメントによりサポートできる仕組みを導入し、ビジネス部門のデジタルデータ人材を1年で130人育成することを目指しています。最終的には、自部門でデジタル人材を育成できるような仕組みを実現する予定です。そのために、経営理念をまとめた「ブランドブック」を作成し、社員に配り会社として大切なものを引き継いでいくようにしています。

 一方、システムの全体構想や将来のあるべき姿などのコントロールは、情報システム部門の役割だと思っています。このとき経営戦略に基づいた発想ができないと、情報システム部門は生き残れません。こうした発想は、ビジネス部門とシステム部門が話し合ってきた結果です。

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