猛烈な勢いでケチをつけられると必死にアイディアを絞り出して対策を打とうとするのではないだろうか。ただしケチをつける際、守るべきことがある。
昔の話で恐縮だが、今でも立派に通用する。
筆者の若かりし頃、社内でも名だたる“厳しすぎる”A事業所長の言葉である。今回は、この「ケチをつけろ!」の思わぬ効用を説く。
A事業所長は、実に厳しかった。その厳しさの度合いは下記の出来事から推測可能だと思うが、彼はある時数名の若手を前にして雑談の中で呟くように言った、「あらゆることに、ケチをつけろ!」。それ以上の注釈はなかったが、どうやら彼の企業人としてのやり方なのだろう。筆者は、本来「あらゆることに、疑問を持つ」ことが習性となっていたので、「ケチをつけろ」がすんなりと心に入ってきたことを覚えている。
A事業所長が日頃どれほど厳しく、かつ「ケチをつけ」回っていたかの例を示そう。
筆者が製造課長に就いていた時期のある日、秘書が小声で言った、「入り口に立っています」。筆者に緊張が走った。A事業所長が、製造現場事務室の入り口に立っているという意味である。滅多にないことだが、Aは事業所内巡視の途中で3、4か月に1度ほど当事務室に立ち寄る。入り口に立っているのは、たかが5分程度だろうが、30分近くにも思えた。
周りの空気が止まった感じがする。やがて、ゆっくりと課長席に近寄ってくる気配がした。筆者はすでに覚悟していたものの、緊張は極度に達する。「おい!」、周りの空気が振動する。筆者はバネのように立ち上がり、直立不動だ。「君は女子事務員を書類のファイルをするためだけに2名も雇っているのか!」、「はい?」、「あの2名は不要だから減らせ!」。見ると、入り口近くのコーナーにある机上で、女子事務員が2名で会議資料を揃えながらファイルしている。確かに動作は、スーパースローカメラを見るように遅い。しかも、ペチャクチャしゃべりながらの作業だったのだろう。「分ったか、必ず減らせ!」。
それから製造現場を引きずり回される。「この部品の山は何だ」、「何に使う部品だ」、「何か月分がなぜ溜まっていて、いつはけるのか?」、矢継ぎ早の質問が飛ぶ。「調べて、後刻回答します」、「何い? 現場課長がそんなことを把握していないのか!」、自動旋盤の前で、「この旋盤の稼働率は何%だ?」、「後で回答します」、「何い? 君は何も把握していないのか、課長失格だ!」。
自動組み立てラインがトラブルで止まっている、「これは、なぜ止まっているんだ?」、担当職長を呼ぼうとすると、「自分で直せ。いますぐ見ている前で直して、すぐ稼働させろ。止まっている間は時間を無駄にしているんだぞ」、職長が駆けつけて来て説明しようとすると、「君はいいよ、課長に聞いているんだ、自分でできないなら今すぐ辞表を書け!」。構成員200名ほどの大所帯で、何から何まで把握はできない。しかし、容赦はしない。A事業所長は事程左様に「ケチ」をつけて、怒鳴りまわした。
事業所の管理者は誰でもそうだったが、筆者も恐れと同時に強烈な悔しさに襲われ、製造現場の改善に拍車をかけることになる。必死になるから、アイディアも出てくる。
A事業所長がケチをつけるのは、ルーチンワークに対してだけではない。予算会議、製品開発会議、業績フォローアップ会議、戦略面も含め全てで同じように、猛烈な勢いでケチをつけて攻めまくる。管理者は、恐れながらも必死にアイディアを絞り出して対策を打とうとする。
企業の随所で、アイディアを何とか出させよう、創造力を何とか発揮させようとする努力が試みられる。創造力発揮のための工夫や主張、セミナーが昔から多く見られる。
例えば、「創造力を引き出せない日本企業のオフィス」という三木光範同志社大教授の主張がある(以下は、nikkei BP net 2011.10.31.より引用)。従業員の創造力やモラールを引き出すために、外資系企業はオフィス環境にコストをかけることを惜しまないが、日本のオフィスは画一化され、単なる作業場にすぎないと切り捨てる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授