企業の資源は限られている。いかに有効に使うかは、投資を成果の期待できない分野から、期待できる分野へシフトすることである。そこで、「捨てること」が必要になる。
ドラッカーは、「急激な構造変化の時代にあっては、生き残れるのは、自ら変革の担い手、チェンジリーダーとなる者だけ」であり、チェンジリーダーになるためには2種類の予算が必要であるとしている。1つは現在の事業継続のために確保する予算で全予算の80〜90%、もう1つは将来の事業のために確保する予算で全予算の10〜20%である。
そして、この比率は好不況に関係なく確保すべきだとしている(P.F.ドラッカー「明日を支配するもの」ダイヤモンド社)。
しかし、「好不況に関係なく」は理解できるとして、しからば企業業績が赤字に陥ったり、あるいは市場で大きな不良事故を出して、大規模なリコールのため屋台骨を揺るがすような大きな出費が必要になったりなどの非常事態に陥った時も、全予算の10〜20%を将来事業のために確保するという呑気なことをしていてよいのだろうか。
これに対する回答として、筆者は2つ考えた。1つは、トップ・経営陣は「双面型リーダーシップを体得して、発揮しろ」、2つには、「昨日を捨てろ」である。
要するに、筆者は非常事態において、トップ・経営陣を冷ややかにトコトン追い詰めようという魂胆である。
前者は、マイケル L. タッシュマン ハーバード・ビジネス・スクール教授らの主張(Diamond Harvard Business Review 2011.9.)からの引用であり、後者はドラッカーの主張である。
タッシュマン教授らの主張は、コア事業とイノベーション事業の相反する目的、ニーズ、あるいは制約を巧みに利用するという「双面的」アプローチをするリーダーは、目覚しい業績を繰り返し達成することができるとしている。ここでは、この手法を非常事態に直面する企業の予算決定時に活用することを薦めるものである。
まず、タッシュマンの双面型リーダーシップの概要を紹介する。
ソフトウエア会社マイシスのCEOが、世界的危機を乗り越えるための事業計画の準備を経営幹部に指示をしたところ、新規事業への投資300万ドルの中止が最初に上げられた。多くの経営幹部は、新規事業や市場を開拓する必要性を認識していながら、経営が困難な時代にはコア事業の差し迫った要望に屈するものだ。あるいは、新規事業とコア事業の間の投資バランスを取るという重要な意思決定を、事業部などライン部門に押し付けるCEOは少なくない。
タッシュマン教授らは、大手企業12社の経営陣を詳細に研究した結果、新規事業を推進しながら、コア事業の成長を支援する原則を発見したとする。それを「双面型リーダーシップ」と呼び、経営陣が新旧の緊張関係を受け入れ、経営トップレベルで常に創造的な対立状態を育むことである。それが正しいことは、上記のマイシスで実証されたという。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授