さて企業非常事態の時に、ドラッカー理論である10〜20%の予算を常に将来事業のために割いて果たしてよいのか、に対する筆者の2つ目の回答である。それは、やはりドラッカーが主張する「昨日を捨てろ」の実行である。企業の資源は限られている。その資源を有効に使うには、資源の投資を成果の期待できない分野から、成果の期待できる分野へシフトすることである。そこで「捨てること」が必要になる。
「今日のような乱気流の時代にあっては、変化は常態である」。「急激な構造変化の時代にあっては、生き残れるのは、自ら変革の担い手、チェンジリーダーとなる者だけである」。「チェンジリーダーとなるために必要とされる条件の第一が、変化を可能にするための仕組みとしての廃棄である」。「昨日を棄てることなくして、明日をつくることはできない」。
「自ら未来をつくることにはリスクが伴う。しかしながら、自らリスクをつくろうとしないほうが、リスクは大きい」(P.F.ドラッカー 前掲書)。名言である。この「捨てる」作業は、当然のことながら常日頃行われていなければならない。
ドラッカーも「廃棄は、体系的な作業として行う必要がある」として、あるサービス受注会社が、毎月第一月曜の午前中、全従業員で自社活動のすべてについて廃棄をするための点検会議を開いて成功している例を挙げている。
しかし、企業が非常事態に陥り、将来事業への予算を決めなければならない、その追い詰められた状況下においてさえ、改めて捨てることを問うことを筆者は薦める。
ドラッカーの問いかけは、具体的である。(1)寿命がまだ数年はあると思われる状況の製品はないか、(2)償却済みを理由として維持されている製品はないか、(3)これから成功させるべき製品を邪魔するようになった製品はないか。
非常事態の緊迫した状況下で、トップは追い詰められた状態でリスクを伴うギリギリの結論を出すための思考と議論と英断を求められる。
要するに、業績悪化などの非常事態の場面において、将来事業に対する決断をトップ、経営陣に厳しく迫るものである。それは裏返せば、切羽詰ってからいよいよの決断を迫らなければならないトップ、経営陣の日頃の経営姿勢を問うていることにもなる。
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。
その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授