震災による節電対策としてのワーキングスタイルを考えるとき、それを好機と捉えて労働に関わる問題をどのように解決するかを、新しい経営モデルの構築を視野に入れてさらに検討しておく必要がある。
電力使用制限令が、7月1日政府によって発動された。東日本大震災後の電力不足の影響で、東京・東北電力管内大口需要家に昨年比15%削減を罰則付きで義務付けた。政府は中小企業や一般家庭などにも、罰則のない15%削減を要請した。
さらに政府は7月20日、西日本5電力会社へ今夏の節電を要求した。既に出ている中部電力管内への自主的節電要求も含めると、節電要求を受けていないのは北海道と沖縄だけだ。それに伴い、企業は残業制限、在宅勤務拡大、サマータイム導入、休日シフトなどワーキングスタイル見直しに動く。
そしてこれを機会に、「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を見直す機会にしたい」、「産業能率大学には震災後、在宅勤務や短時間勤務で如何に生産性を維持すべきかという相談が寄せられている」、「災害などで事業所が使えなくなっても業務を継続できる体制をつくる」、「節電を機会に長時間労働など労働慣行が変わる可能性がある」など、節電を契機に「生産性を高める機会にできるか。企業の試行錯誤は続く」(日本経済新聞'11.6.30.)。
震災による節電対策としてのワーキングスタイルを考えるとき、それを好機と捉えて労働に関わる問題をどのように解決するかを、新しい経営モデルの構築を視野に入れてさらに検討しておく必要がある。それを先取りして実行できることが、今後の優良企業の条件となる(筆者の先の記事「震災後日本の企業経営はこう変わる、先取りしよう」参照)。
節電という視点から考えただけでも、ワーキングスタイルについてマルチにアイディアが出てくる。
(1)一般的に取り上げられている残業制限、サマータイム導入、休日シフトなどの他に、
(2)通常業務・時間外業務での集約勤務(外出・営業・時間外などでフロアに従業員がまばらな時に1箇所へ集約、あるいは複数のフロアのまばらな勤務をワンフロアに集約する)。そのためにフリーアドレス制採用、照明や空調などの分割管理、書類保管の配置やパソコン・電話・電子機器の共用の仕方などに工夫が必要だ。
(3)会議の改革(いちいち会議室に集まって時間や照明・空調などを余分に使うことをせずに、屋外会議、短時間終了のためのスタンディング会議、中心人物の席に数人が集合しての濃密な打ち合わせ、などを当たり前のこととして実施する。さらに資料・出席者・時間・会議そのものなどを徹底削減)。節電だけ考えると、以上の程度のアイディアしか出ない。もっと視野を広げるべきだ。
(4)テレワーク(情報通信機器を利用して時間・場所に制約されず勤務する形態)の導入とその柔軟活用だ。テレワーク(在宅型・モバイル型・サテライトオフィス型勤務)の普及率は、いまだに低い。平成22年末でテレワークを導入している企業は12.1%、「導入予定がある」を含めても15.6%(総務省「平成22年通信利用動向調査))、まだ働き方として一般的でない。
今まで普及しなかった理由は、情報セキュリティ・労務管理・コミュニケーション、そして費用対効果などの問題がある。(一部に、テレワークの在宅勤務は、企業の電力使用を家庭に押し付けているのではないかという見方まであるが、在宅勤務による電力使用のオフィスでの減少と在宅での増加を合計すると、14%減少と言われる。)(朝日新聞2011.7.12.)
今や、テレワークをワーキングスタイル変革の重要な一要素として捉えなければならない。テレワークは、節電効果以外にワークライフバランス問題、少子高齢化問題、地域格差・地方の疲弊問題などの解決に十分効果を発揮する可能性がある。
これらについては次回触れるが、過去のしがらみや課題の解決に取り組んで、テレワーク採用を積極的に進めることが求められる。
(5)さらに発想を進めて、企業間の業務集約がある。
・従来は製造業があらゆる製品について競合メーカーと自由に競って製造しているが、この際企業間で互いに機種の分担を決めて、機種ごとの集中生産をし、企業間で機種を融通し合う。
・総務・経理・資材など管理部門業務について、グループ企業間はもちろん、地域異企業間で業務集約をする。ノウハウや企業秘密に触れない部分のみ集約する。「そんなことあり得るのか」と考えてしまっては、事は進まない。今は非常事態で、しかもこの機会に新しい経営モデルをなりふり構わず模索しなければならない状況下にあるのだ。旧来の思考の壁を思い切って破る。そして、実施のための条件整備を必死になって徹底的に研究するのだ。なお、業務集約は節電のみならず、生産性向上にも効果がある。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授