なぜ働く時間が減っても疲れが取れないのか? 睡眠コーチが暴く「疲労回復の常識」の誤りと正しい休養術ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

働く時間も減り、便利になり、リラクゼーションも充実しているのに、なぜ疲れている人が増えたのか。それは疲れの取り方が間違っているからだ。本当に効果がある8つの疲労回復法とは。

» 2025年11月05日 07時05分 公開
[京部康男ITmedia]
『仕事の質を高める休養力』

 かつては長時間労働でワーカホリックと言われた日本人だが、今では労働時間は減少している。それにもかかわらず、疲労を訴えるビジネスパーソンは増え続けているのが現状だ。この矛盾はなぜ生まれるのか。睡眠コーチとして企業の疲労改善を数値で実証してきた角谷リョウ氏が、ITmedia エグゼクティブ勉強会で著書『仕事の質を高める休養力』の中から、「日本人の8割が知らない本当に疲労が回復する休養術」と題して講演を行った。

疲労が増え続ける日本の矛盾

睡眠コーチ 角谷リョウさん

 角谷氏はまず、現代日本が抱える矛盾を数字で示した。日本は『過労死(KAROSHI)』という英語があるほど働くことで有名でしたが、実は今、年間就業時間は先進国の中でも平均以下である。働き方改革の後押しもあり、仕事時間は確実に減少している。

 さらに家事も機械化やサービスの発達で楽になり、サウナやマッサージなどのリラクゼーション産業も急成長している。リカバリーウェアは200万枚を売り上げるなど、疲労回復への関心は高まっている。

 しかし、疲労を訴える人の割合は20年前の6割から現在は8割へと増加している。睡眠不調者も、国が目標とした15%どころか、18.4%から25%へと悪化の一途をたどっている。「働く時間も減り、便利になり、リラクゼーションも充実しているのに、なぜ疲れている人が増えたのか。それは疲れの取り方が間違っているからです」と角谷氏は指摘する。

楽になったのに「疲れている人」は増えている。

信じられてきた「常識」の誤り

 角谷氏は、一般に信じられている疲労回復法の多くが誤解に基づいていると説明した。まず温泉についてだが、実際には温泉は疲労物質を「出す」プロセスであり、それだけでは疲労回復は完結しない。疲労を出すことは重要だが、その後の「休む」「充電する」というステップが必要だという。

 睡眠時間についても誤解が多い。8時間睡眠が理想とされているが、大規模調査のデータでは、8時間睡眠は5時間睡眠よりも死亡リスクや発がん性リスクが高いケースもある。「特に中高年に関して言うと、8時間は完全に寝すぎです。60歳以上では厚生労働省が8時間以上寝ないでくださいという指針まで出しています」。重要なのは時間ではなく、深いノンレム睡眠の質だという。

 休日の過ごし方にも落とし穴がある。日曜日にゆっくり過ごすと夜に寝られなくなり、月曜日のスタートが悪くなる。「金曜、土曜は何をしてもいいですが、日曜日は早起きして平日同様アクティブに動くことです。その方がよく眠れます」と角谷氏は語る。

 リカバリーウェアについても使い方を誤解している人が多い。リカバリーウェアは遠赤外線で体温を上げ血流を良くする効果は実証されているが、寝る時は血流をゆっくりし、体を冷やすことで深い睡眠に入るため、寝る時にリカバリーウェアを着て体温を温めていたら深い睡眠に入れない。運動不足の解消や疲労物質を流すには有効だが、睡眠時の使用は逆効果だという。ちなみ比較的安価な医療機器認定製品も高級品も、効果はほぼ同じで「質感と気持ちの問題」だと角谷氏は指摘する。

本当に効果がある8つの疲労回復法

 角谷氏は、科学的根拠に基づいた疲労回復法を8つ紹介した。

1. 体内栄養素を適切に取る

 栄養素はある一定以上取っても意味がなく、むしろ弊害がある。重要なのは、自分に足りていない栄養素を補うこと。アミノ酸スコアの考え方のように、1つでも低い栄養素があるとボトルネックになり、他の栄養素も活用されない。

足りない栄養素を摂る

2. お酒を飲む前にトマトジュース

 トマトジュースはアルコール分解を助け、睡眠スコアが大きく変わる。トマトジュースはストレート果汁でも濃縮還元でもリコピンの度合いが下がらないため効果がある。

3. 自然に触れる

 自然はメンタルストレスと肉体疲労を大幅に改善する。効果が1カ月から2カ月持つので、疲れたら森や林のある場所に旅行に行くのが効果的だ。身近にある公園でもある程度効果があり、人工植物や4K映像でも本物の自然の5割近くの回復効果がある。

4. 二酸化炭素濃度に気をつける

 古いビルでは1500〜2000ppm、家族でクーラーをつけて寝ると3000ppm以上になることが多い。空気清浄機もクーラーも空気を循環させているだけで、二酸化炭素を酸素に変えているわけではないので、換気扇を回す、寝室のドアを開けるなどで1000ppm以下に抑える工夫をしてほしい。測定器は以前は高価だったが、現在は1000〜3000円で購入できる。

5. 深いノンレム睡眠を確保する

 深いノンレム睡眠(ステージ3、4)で睡眠中の8割以上の脳のゴミ(アミロイドベータ)が排出され、成長ホルモンが分泌される。最低30分、理想は1時間以上の深いノンレム睡眠が必要だ。

深いノンレム睡眠を確保せよ。

6. マグネシウムを取る

 欧米ではもう常識だが、精神的にも肉体的にも疲れた時にはマグネシウムを摂ってほしい。日本人はマグネシウムが非常に足りていない。できれば食物から取ってほしいが、比較的安価で提供されているサプリメントでもよい。エプソムソルト(硫酸マグネシウム)を入浴剤として使うと、皮膚から吸収され睡眠スコアが改善する。

マグネシウムで心身をリラックス。

7. 体を温める

 リカバリーウェアや入浴で体を温めることは有効だが、使い方が重要だ。寝る前までやトレーニング後に使うのはいいが、睡眠中はある程度体を冷やす必要があるため、リカバリーウェアでの睡眠は勧めない。温熱療法では高温のサウナよりも、低温でじっくり汗をかく岩盤浴やスチームサウナの方が老廃物の排出には効果的だという。

8. エナジードリンクを酢に変える

 エナジードリンクは糖質とカフェインで疲労を麻痺させているため、その後さらに疲れる。酢は疲労感も疲労も両方取る数少ない高エビデンスのものの1つだ。酢を炭酸で割って飲むと、すっきりしながら疲労が回復する。

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