海外アウトソーシング市場において、今や日本からの案件は、安くて敬遠される状況だ。その現状に警鐘を鳴らし、業務を構造化できない日本企業の病巣を指摘するのがスノーピークの田中氏である。AIを「人間の思考を構造化するパートナー」と捉え、丸投げではない「真の共創」を実現するための処方箋を提示する。
「人生に野遊びを。」このコーポレートメッセージを掲げ、キャンプフィールドの中に本社オフィスを構えるスノーピーク。その独自のカルチャーの中でDX戦略を牽引するのが、執行役員 DX戦略本部長の田中覚氏だ。
2025年11月11日、12日に開催されたマーカスエバンズ主催イベント「CIO Japan Summit」において、田中氏はキャンプウェアという「正装」で登壇。「ITアウトソーシングとAIによる協業の未来」と題された講演は、これまでのオフショア開発の常識を正し、生成AIがもたらす新たなパートナーシップの形を示すものだった。
本稿では、田中氏の豊富なキャリアに基づく洞察と、AIを活用した「丸投げからの脱却」の具体的手法について紹介する。
田中氏のキャリアは、日本のITアウトソーシングの歴史と重なる。2000年代よりアクセンチュアにてERP導入とBPO(Business Process Outsourcing)を、GEにて徹底したグローバル標準化と中国へのオフショアを、そしてスシロー、オーケーでの開発組織の立ち上げを経験。いずれも海外を中心とした外部のパートナー企業に開発業務を委託してきた。これらを経てたどり着いた結論は、「もはやコスト削減のために『安い国』を探す時代は終わった」という事実だ。
2010年ごろ、オフショア開発の主目的は「安さ」だった。中国やベトナムなどの国々は、日本企業の厳しい品質要求に耐えながらも、技術と組織を成長させる機会として日本案件を歓迎していた。
しかし、現在は、日本案件を敬遠する海外企業が増えているのだという。
背景としては、開発のスピードと複雑性が増す中で、世界中のエンジニアの争奪戦が起きていることが挙げられる。受注する側が主導権を握る時代において、田中氏は「日本案件」と「欧米案件」には決定的な違いがあると指摘する。
欧米企業は、担当者が決裁権を持ち意思決定が速い。成果を重視し、最新の標準ツールを用いて効率的にプロジェクトを進める。対して日本企業は、階層が多く意思決定が遅い上に、開発途中での「ちゃぶ台返し」が頻発する。さらに独自の管理ツールやExcelでの管理を強要し、最新技術への感度も低い。そこに歴史的な円安が追い打ちをかけている。
中国やベトナムの優秀なエンジニアにとって、日本案件は「スキルが身につかず、単価も安く、面倒な仕事」になりつつあるのだ。田中氏は「オフショア先は、もう『学びにならない日本案件』を選ばない」と警鐘を鳴らす。
なぜ、日本企業と外部パートナーの関係はうまくいかないのか。田中氏はその原因を、日本特有のコミュニケーションスタイルにあると分析する。
「受注側も日本語を理解できる。しかし、発注者が業務を構造化して話せないので、意思疎通がうまくいかない」――。多くの日本企業の発注担当者は、業務の背景や目的を構造化して伝えることを苦手としているという。その結果、何が起きるのか。
構造化されない曖昧な業務説明は、開発現場を「推測のパッチワーク」へと変貌させる。発注側が業務の条件分岐や例外処理を定義しきれないまま、断片的な情報をベンダーに丸投げる。その結果、出来上がったシステムは「仕様通りだが、実務では使い物にならない」という、不幸なミスマッチを生み出し続けてきた。
「我々は自らの説明不足を棚に上げ、開発側の理解力という不確実なものにプロジェクトの命運を預けすぎていたのではないか」。田中氏のこの問いかけは、多くのCIOやプロジェクトマネジャーの胸に刺さるはずだ。
この閉塞感を打破する鍵として田中氏が提示したのが、生成AIの活用だ。これは、コード生成や議事録作成といった単なる自動化・効率化ツールとしてではない。「人間の思考を構造化し、『意図』を設計へと昇華させるパートナー」としてのAI活用である。
田中氏自身、本講演の準備においてChatGPTやGeminiと数時間にわたる壁打ちを行い、スライド作成までAIに任せたという。そこで得た確信は、「AIという鏡を通すと、バラバラだった情報が強制的に構造化される」ということだ。
例えば、これまで人間が何日もかけて行っていた要件定義や現状分析も、AIに以下のような「業務を構造化するための6つの観点」を与えることで、曖昧な業務フローを劇的に整理できるという。
これまで熟練のコンサルタントがヒアリングで引き出していたような要素を、AIは対話を通じて引き出し、整理してくれる。AIが業務を理解するというより、AIとの対話を通じて、人間側の思考が強制的に構造化され、業務の「論理的な整合性」が浮き彫りになるのだ。
既に先進的な中国企業の事例では、AIが要件定義書から不足情報を指摘し、仕様書をブラッシュアップし、さらには生成されたコードと仕様書の矛盾を自動検知するところまで自動化しているという。これにより、単価が高騰した中国エンジニアを使っても、工数を圧縮することでトータルコストを抑えつつ高品質な開発を実現している。
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明治学院大学 経済学部准教授