なぜ経営現場でドラッカーを実践できないのか――事業の本質とは? しかしドラッカーにも修正が必要生き残れない経営(1/2 ページ)

「顧客は誰か」「顧客はどこにいるか」「顧客は何を買うか」「いつ問うべきか」トップは事業の本質を問い続けなくてはならない。

» 2012年05月21日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

 「企業の目的は顧客創造である」「事業は顧客からスタートしなければならない」というドラッカーの名言は、有名である。企業の目的を利益創造である、あるいは株主貢献であるなどとする多くの経営者は、ドラッカーを学ぶことが必要である。

 しかし、ドラッカー理論必ずしも完璧ではない。修正や補足を必要とする点が少なからずあると指摘したい。そういう認識をしておかないと、経営現場でドラッカーを実践するに当って障害が出てくる。今回は、「事業は何か」を問う場面での欠陥を指摘する。

 ドラッカーによれば、「企業」という「社会の機関」である組織が、「事業」という行為を起こすことによって成果を得るとする考えから、事業を成功させるためにはやはり顧客を創造する必要があり、従って事業は顧客からスタートしなければならない。

 そこで、「われわれの事業は何か」と問う時、例えば鉄道会社は顧客と貨物を運ぶ、銀行は金を貸す、と考えるのは安易過ぎ、全く本質を捉えていない。事業の本質を捉えることは難しく重要であり、次の4つの問いを発しなければならず、それを問うのはトップマネジメントの責任であるとする。

 「顧客は誰か」「顧客はどこにいるか」「顧客は何を買うか」「いつ問うべきか」。しかし、ドラッカーが主張するそれぞれに陳腐で消極的な面があることを発見し、補足や修正を必要とすることを以下指摘する。

1、顧客は誰か

 この問いが、事業にとって極めて重要であることは誰でも気づくだろう。

しかし、ドラッカーの答えは実にあっけない。顧客は消費者、つまり財やサービスの最終利用者だけではなく、その前に位置する小売店という2種類が存在するという。あるいは、カーペット業者には建築業者と住宅購入者、さらに床張りカーペットが住宅ローンに含まれれば金融機関への働きかけも必要となり、顧客は数種類いるとする。

 「顧客は誰か」の問いに対するドラッカーの回答は、「顧客は数種類いる」である。ドラッカーたる者、何と当たり前のことをもっともらしく語っていることだろう。

 われわれは日頃、ドラッカーもそうであるが、顧客は誰かを余りにも安易に、単純に考えている。例えば、衣料品である。ドラッカー流にいってしまえば、最終消費者の他に、デパート、問屋、衣料品店など複数があるとなるのだろう。しかし、近年そんな単純な顧客分析で片付けられない。市場は変化してきている。いわゆるスーパーマーケットが衣料品を扱い、アウトレットが立ち並び、テレビ販売あり、通信販売あり、ネット販売あり、それぞれの顧客層が異なり、単に最終消費者と複数の流通経路で顧客が数種類あるなどと単純なことをいっていられない。

 さらに、ITがそれに拍車をかける。ITソフトの技術進歩とビッグデータの利用により、店舗内の顧客の動きや滞留時間、Webサイト訪問客の動きやSNS(Social Network Service)でのつぶやきの把握などから、購買動向や購買心理の推測などを行い、顧客を分類したり、顧客ターゲットを設定したりする。従来では不可能、ないしは困難だった詳細な分析が可能となり、顧客は誰かをさらに深く問う助けになる。

 「顧客は誰か」は、ドラッカーの予想を超えてますます厳しく問われ、われわれはその問いに素早く、柔軟に対応する準備を整え、場合によっては答えを出すための手段の投資を決断し、実行しなければ大いなる後れを取る。

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