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» 2012年05月21日 08時00分 公開

なぜ経営現場でドラッカーを実践できないのか――事業の本質とは? しかしドラッカーにも修正が必要生き残れない経営(2/2 ページ)

[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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2、顧客はどこにいるか

 1920年代に、顧客が従来とは違った場所にいる、即ち農民が自動車を持って街へ買い物に行くようになっていることに気づいたシアーズ社が成功した。事ほど左様に、顧客がどこにいるかを問えとドラッカーは指摘する。

 しかしわれわれは、例えば既に海外市場をターゲットにした時に「顧客はどこにいるか」を問う必要性に迫られていた。しかも、「自動車を持って、街に買い物に行く農民がいた」、「顧客がそれまでとは違う場所にいることを発見した」という極めて消極的な問いと答えでは、この厳しい時に他に先んじて顧客創造することはかなわない。

 われわれには、農民に自動車を持たせて街に買い物に出かけるように仕掛けるというような「顧客をどこに創り出すか」という、顧客を創造するための能動的な問いこそが求められているのではないのか。

 「駅ナカ」が、「顧客はどこにいるか」の問いを能動的、かつ創造的に問うた典型的な好例といえるだろう。JR東日本が2001年に、「通過する駅から集う駅へ」というコンセプトで大宮駅、品川駅に商業空間「エキュート」を開設し、次々と広めた。

 一方、東京メトロが2003年に「EKIBENプロジェクト」という"駅"を"便"利にするプロジェクトを始め、店舗開発に力を入れた(以上、Excite Bitサイトより)。「駅ナカ」は、まさに駅の中に顧客を創り出したのである。

 ドラッカーは「マネジメントとは、市場を見つけるだけでなく、自ら市場を創造すべき存在である」と明言しているが、各論展開の箇所でも明確に示すべきである。

3. 顧客は何を買うか

 修理工からキャデラック事業部を任されるようになったといわれるニコラス・ドレイシュタットが、「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートだ。顧客が購入するのは輸送手段ではなく、ステータスだ」という発想のもとに、破産寸前のキャデラックを救ったという。そしてドラッカーは、「顧客が価値を認めて購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用である」と指摘する。もっともである。

 しかし、効用に対する欲求は変化する。効用は、時と場合、即ち顧客の存在する社会的状況や経済状況、顧客の主観的状況などによって激しく変化する。例えば、洗濯機が出始めた頃、とても庶民の手に届かなかった。洗濯機を購入した富裕層の一部は床の間に保管したという今では信じられない光景があった。北海道の主要都市で、筆者が実際目にした事実である。その後、洗濯機は汚れを落とすことができれば十分という顧客の価値観が、乾燥という効用を要求するようになり、その後はアイロン不要という効用を要求するように変化した。環境保全の効用から、洗剤メーカーと協調する場面もあった。

 さて、顧客は製品そのものを買うのではなく、その効用を買うのだということは今や衆知のことであるが、効用に対する欲求は今示したように激しく変化するということを、ドラッカー理論に追加しなければならないだろう。

 なお、良いものを作れば売れる、安ければ売れるといまだに信じる経営者に、次のドラッカーの指摘を贈りたい。顧客にとっての価値は、多様である。例えば、米国の主婦が家電製品を求める時、製品だけでなく、アフターサービスの内容(速さ、仕事ぶり、費用)について友人の経験などを参考にする。顧客から見た価値は実に多様で、顧客にしか答えられないため、答えの推測は禁物である。顧客に直接聞くべきである。

4、いつ問うべきか

 「ほとんどのマネジメントが、苦境に陥った時しか“われわれの事業は何か”を問わない」。しかし常日頃から問うべきで、特に成功している時にこそこの問いを発しろ、とドラッカーは厳しく指摘する。

 まさにその通りであるが、ドラッカーは問うための仕掛け作りの提案や知恵を、提示してくれない。読者が個々に判断しろということか。しかし経営現場の実態を見た時、通常時はもちろんのこと、苦境に陥った時にさえ、いわんや成功している時にはこの問いと無縁である場合がほとんどのケースである。だからこそ、「問う」機会を意識的に設定する必要がある。この点を往々にして見落としてしまい、結果的にドラッカー理論を実施できなかったということになる。

 では、「問う」機会をどう設定するべきか。

 「問う」ための事業計画会議とか、開発会議などを経営幹部出席の下に定期的に設定すべきである。そしてその会議資料に、「事業は何か」を問うテーマをノルマとして課し、席上で議論することを義務付ける。ただし、現実には形式に陥り易い。形式に陥らないようにするためには、どうするか。トップの意識に期待するしかない。トップが「事業は何か」と問う重要性を自ら学び、認識し、実行しなければならない。トップが最後のとりでなのだ。

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。

その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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