お客さまの生の声を聞き、自分の仕事がどれほど役に立っているかが実感できると、やる気が起き仕事の効率も上がる。さらにお客さまが何を求めているか知ることができる。一挙両得ではないか。
ドラッカーは、企業の目的は「顧客創造」であり、顧客からスタートしろと説く。なぜなら、顧客が資源を財貨に変えるからである。企業は、そういう顧客を創造するのが目的だとする。そして顧客を創造するために、企業には3つの機能、すなわちマーケティング、イノベーション、および生産性があるとする。その3機能が、企業に成果をもたらすとする(以下も含めて、ドラッカー著「マネジメント」ダイヤモンド社より引用)。
その中でも、マーケティングは企業全体の中心的次元の機能というべきである、とドラッカーは言いきる。われわれ作る側から、あるいは売る側から、何を売りたいか、製品やサービスで何ができるか、と考えがちだが、そうではなく顧客の側に立って、顧客は何を求めているか、何を価値と認めているか、必要な満足は何かを考える、これこそがマーケティングで、販売を不要とし、おのずから売れるようにすることだとする。
従って、マーケティングは従来のように製品からスタートするのではなく、顧客の欲求・現実・価値からスタートせよというわけである。
確かにそのとおりだが、その実践はドラッカーが具体的方法論を提示していないこともあり、かなり難しい。従って、その実践をドラッカーの表現どおりに考えて取り組もうとすると難しくなるのであって、ごく身近なことから始めようとすると、比較的容易に「顧客創造」にたどり着けるものである。
一方で、実はその「身近なことから始める」ということが、思わぬ効果に結びつくことに筆者は気付いた。それは、従業員のモラールと深い関連があるということである。そのことは、ドラッカー理論からすれば副次的効果といえるが、意識して取り組まないと実現はできない。しかし、意識して巧みに取り組むと一石二鳥の効果が期待できるといえよう。
まず、マーケティングの取り組みについて、経営現場での実態を分析する。1つは、マーケティングがうまく機能していない例である。ある中堅の商社(卸売業)だが、顧客情報を収集するきわめて高度なシステムを構築しているが、せっかくのシステムがマーケティング面でうまく機能していない。
販売店や消費者から寄せられた苦情や要望などの情報、競合他社の情報などの市場情報が、すべてデータベースに登録されている。そのデータを利用する際は、ほぼユーザーの希望する形で加工されてアウトプットされるシステムになっている。しかし、そのデータの利用の仕方に問題がある。
例えば商品企画部門などは、寄せられた情報のほとんどはジャンク情報で取り上げる価値はないとみなしている。仮に内容のある情報でも、「こんなアイディアは、われわれが既に考えていることだ」として、見向きもしない。「新鮮味のない、誰でも考えつくような常識的な情報にいちいち対応するのが煩わしい」と、企画者は呟く。システムが利用されないとすると、情報のインプットもメンテナンスも疎かになる。高額投資した高度なシステムは、全く無駄になっている。
蓄積されたデータや加工されたデータを謙虚に分析し、それらをきっかけにして販売店や顧客を訪ね歩き、意見や要望を直接聞き取る、あるいは情報を基にメーカーと一緒に作った試作品を持って顧客を回り、意見を聞き歩くという地道なことを繰り返し繰り返し実行することによって、顧客の欲求、現実、価値からスタートできるはずである。データが使われるようになると、データのインプットやメンテナンスもきちんと行われ、システムが生きてくる。
次は、マーケティングにうまく取り組んでいるネッツトヨタ南国の例である(2009.4.19.フジテレビ「新報道2001」及び同社ホームページより)。同社高知本店が、斬新な営業手法で実績を上げている。スペース確保のためにカーディーラーながら店頭に商品としての車を置かず、顧客の憩いの場を提供する。
パンとコーヒーで250円、飲み物は無料、顧客で常に満員だそうだ。お客が来店した時、出迎えたスタッフから名前で呼ばれる。気分は悪くない。仕掛けは、駐車場からスタッフが無線で車ナンバーを店内へ伝える。店内では、パソコンから顧客名、顧客の好み、趣味など詳細な情報を検索して、対応する。洗車は、何回でも、しかもトヨタ車以外でも無料でサービスする。営業マンにノルマはなく、訪問先で売込みを一切せず、車の掃除をして帰って来るという。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授