中期経営計画のあるべき姿――大変革期における経営計画策定・実行のポイント視点(1/3 ページ)

自社の10年後、20年後の絵姿は明確だろうか。過去の成功体験に囚われ経営改革ができていない。今の日本企業に多い姿なのではないだろうか。10年後のありたい姿からのバックキャスティングによる計画づくりを試してみてほしい。

» 2013年12月09日 08時00分 公開
[平井 孝志、佐谷 義寛(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

経営環境が慌ただしく大きく変化している今こそ、再成長への道筋が不透明な多くの日本企業にとっては、羅針盤である経営計画の策定・実行のあり方を大きく見直すタイミングではないだろうか。多くの日本企業に見られる2〜3年スパンの中期経営計画は、過去から現在の延長線上で数年後を予測し作られるものが多い。この不連続的な事業環境下で大きな成長を成し遂げるのは難しいのではないだろうか。

少なくとも10年先を見据えた“大胆なトップダウンによる自社のありたい姿”を明確に描き、そこからのバックキャスティング(将来のありたい姿からの発想)による中期経営計画で現場を再成長に向けて突き動かすべきである。


1.経済環境の大変革期の中で成長軌道を見失い、再成長へのきっかけが掴めない日本企業

 現在、多くの日本企業は大難局と呼べる状況に直面している。かつて世界をリードした半導体産業や、日本のお家芸と称されたテレビ産業の凋落など、例を挙げれば枚挙に暇がない。これまでの日本企業の主戦場は、日本も含め超成熟ステージに入り将来への伸び代は小さい。替わって、新興国が、ものづくりの場、消費の場として想像をはるかに凌ぐスピードで急成長する中、日本企業の存在感は急速に希薄化し、再成長に向けた足がかりすら見えていない。

 日本企業の多くは新しい市場や変質する既存市場の要求水準に対応できていない。「レベルの違うコスト要求水準への対応」、「品質とコスト、標準化とカスタマイズなどのトレードオフに対する最適解の達成」、「素材・部品からサービスの開発まで、幅広い機能における競合との差別化」など、勝ち残るためのハードルが大幅に高まっている。これまでの日本企業は云わば世界を席巻した「日本丸」という大型船の上での椅子の奪い合いや椅子の並び替えで成長してきた。しかし、皆「日本丸」そのものの行き先や浮沈には目を向けてこなかったため、大海の潮流や変化点など、大きな視点、高い視座で市場を見た上で必要な手立てを打てていない。自社の10年後、20年後の絵姿が不明確な中で、今までの成功体験に囚われ、必要性を認識しつつも経営として改革の決断ができない。今の日本企業に多い姿なのではなかろうか。

 日本のテレビ産業はこれまでの成功体験から自社生産と高スペックに拘り、サムスンやLGなどの韓国勢に対抗するための価格競争力対応という点で判断を誤った。世界シェアの5割以上を占めた日本の半導体産業も、コストより品質・性能重視で重装備の大手ユーザー向けDRAMの成功体験に引きずられ、世の中のニーズが小型で低コストな軽装備のDRAMへシフトする潮流を見誤った。他にも、B to B型の日本の部品・素材メーカーの多くが、日本の顧客企業との長年の取引の中で成長してきた成功体験に縛られ、リソースの大胆な張り替えができず、顧客企業と一緒に伸び悩む結果に悩まされている。

2.経営計画のあり方を見直すステージに

図表1:国内主要企業の中期経営計画の対象期間

 より幅広く長期的な視座から、現状の延長線上にはない目標を掲げ、その実現に向けた明確なグランドデザインを描くことが大難局の打破には不可欠である。そのための経営計画のあり方そのものも大きく見直すべきである。

 経営計画は3年スパンの中期経営計画として策定されているケースが多い(図表1)。過去と現在を結んだ延長線上で連続的に数年後の近未来を予測して計画を立てるのだが、改善の積み重ねによる限られた成長にしかなり得ず、“不連続”的な環境下では意味のない計画になりがちである。“不連続”的な変化の中で、成長の姿を見据え、実現に向けて「何をなすべきか」「どう実現するのか」を計画に落とすことが重要なのである。

3.多くの企業が中期経営計画の策定・実行に大きな問題・課題を抱えている

 日本企業の多くは、中期経営計画の策定・実行において大きく2つの問題・課題を抱えている。

3-1)将来の成長領域への選択と集中によるリソース配分の盛り込みが不十分

 その要因として、「大きな環境変化を見据えた将来への成長の絵姿」に立脚した計画になっていない点が挙げられる。各事業の現状の延長線上で数字を積み上げることによる計画づくりを、多くの日本企業はなかなか変えられない。一見、売上や利益計画が整然と盛り込まれているのだが、現場がつくる“無難な”数字の積み上げになってることが多い。その結果、現状の売上や利益、事業部長の声の大きさでリソースが配分され、将来の成長に向けて本当に必要な領域に絞り込んでリソースを集中投下する視点が欠落する。これには「計画自体のタイムスパンの短さ」と「経営企画の機能不全」といった2つの問題があると考えられる。

 先にも示したが、日本企業の中期経営計画は一般的に3年スパンである。企業が大きな成長の絵を描き、実現に漕ぎ着けるための時間としては短い。その一因として経営トップの任期にも関係がある。日本企業における経営トップの任期は通常長くて6年程度。任期内で成果を見るには、経営計画も3年程度でローリングされ役目を終える、というのが座りが良いようだ。それでは計画は近視眼的なものになりがちである。3年での業績向上となると、先ずは足元の既存事業でどう稼ぐかに目が行くため、現状のビジネスモデルの延長線上で、改善の積み上げによる計画に落ち着いてしまう。5年〜10年先のこともアイデアベースで盛り込まれることもあろうが、確度が見えないものに対しては大きなリソース配分の意思決定はしにくい。

 一方で、低迷期から抜け出し、大きな改革による成果を成し遂げるには、一般的に10年はかかる。例えば、複写機事業のデジタル化でV字回復を図ったリコーの場合、デジタル化の重要性の認識に始まり、製品開発、業績貢献に至るまで10年以上の年月を要している。その間、当時の浜田広社長が13年間一貫して経営の舵取りを行った。花王も、1970年代にはライオンに売上高でも利益率でも後塵を拝していたが、20年近い時間を費やし、流通改革と研究開発体制の確立、新規事業の育成を行い、現在の成長の礎を築いた。当時の丸田芳郎社長がやはり一貫して改革の陣頭指揮に当たった。日産自動車のカルロス・ゴーン社長による長任期での経営の舵取りによるV字回復は記憶に新しいところである。

 また、経営企画に代表される企画中枢部門の、経営計画策定に関する機能や権限が不明確であったり不十分なケースが多い。職掌で定義してあっても、実際は各事業部の計画数字の取りまとめや経営会議のお膳立てなどをするのが経営企画、というところが多いのではないだろうか。また、本来的な機能に必要な人材が不足しているという点も否めない。歴史的にさほど求められてこなかった機能であり、人材が十分に育っていない。昨今、経営企画の重要性を認識し機能強化を図ろうとする企業が増えているが、一朝一夕には人材は育たない。後述するが経営企画の人材には特別なスキルが求められるのである。

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