不確実な将来に打ち勝つ戦略マネジメント〜グローバル企業へ脱皮するための要諦〜視点(2/3 ページ)

» 2014年06月23日 08時00分 公開
[長島 聡、中村 健二(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

3、「引き寄せ」: 製品ロードマップを通じた合意形成

 この製品ロードマップを最も巧みに活用して、自社の戦略へ「引き寄せて」いるのは、ボッシュやコンチネンタルといった自動車部品のメガサプライヤーだ。製品ロードマップには、何をいつ、いくらで供給できるかという製品投入計画が書かれている。メガサプライヤーは、この製品ロードマップを、たとえ不完全であっても完成車メーカーに積極的に伝え、完成車メーカーの意志を巧みに「引き寄せて」いる。

 VW、BMW、Benz など規模や先進性で重要な完成車メーカーとは少なくとも半年に1回、その他の中堅完成車メーカーとは年に1回程度、製品ロードマップの提案および討議を行う。そして、重要な完成車メーカーから上がったニーズは自社の戦略優位性を犠牲にしない形で巧みに充足していく。

 一方、重要度が劣る完成車メーカーに対しては、重要度の高いVWやBenzに遅れをとるという危機感を醸成し、部品の採用を迫っていく。その結果、サプライヤーは多数の完成車メーカーに標準化されたモジュール部品を納入して大きなスケールメリットを獲得することができるのだ。VWの「引き寄せ」も巧みだ。例えば、中国市場においては、自社の独創的な技術である小排気量のターボ付エンジンを省エネ車として政府に承認させることに成功した。このエンジンは多数の販売を計画していたため、VWの戦略実現において中国市場は欠かすことのできない存在だった。

 しかし、当時の政府は電気自動車やハイブリッドといった電動車両技術を梃子にローカル企業の成長を促したいという意図を持っていた。そこで、環境性能における技術的有効性を様々な層の関係者に対して徹底的に訴求したのはもちろんだが、電動車両では到達できない台数規模やローカル企業の関与度の高さというターボ付エンジンならではのメリットを刷り込み続け、状況を一変させた。

 VWの凄さはもう一つある。その説得に際してそのエンジンの肝の技術を開示していない点である。巧みな情報開示によって、ローカル企業や政府の満足と自社の中長期的な優位性を高次元で両立することに成功した。

4、「構え」: モジュール(レゴブロック) の組み合わせ

 冒頭で、VWがモジュール部品の組み合わせで様々な車を生み出す「構え」を持って不確実性を対処していると話したが、メガサプライヤーも同様だ。メガサプライヤーが完成車メーカーに供給するモジュール部品は、カスタマイズはせず各完成車メーカーで共通のプラットフォーム部品と個別の完成車メーカーのニーズに基づいて開発するアプリケーション部品の組み合わせで構成される。

 例えば自動車の電子部品を制御するECU(Electronic controlunit) の場合は、マザーボード、チップ、コネクタなどのハードウエアおよび基本制御ロジックがプラットフォーム部品で、通常はハイエンドとローエンドの2 つの仕様が存在する。一方、筐体、追加コネクタ、各種制御ソフトなどはアプリケーション部品で、完成車メーカー毎のカスタマイズ品が存在する。その際、アプリケーション部品では開発費を完成車メーカーに負担させることでプラットフォーム部品におけるスケールメリットの創出と個別ニーズ充足のバランスを取るのだ。

 前述の通り、サプライヤーは将来の完成車メーカーのニーズを精度よく「先読み」して、予めプラットフォーム部品やアプリケーション部品を準備しておかなくてはならない。そのプラットフォーム部品の完成度を高くしておくこと、そして、アプリケーション部品の開発に必要な要素技術を体系化しておくことで、読みきれなかったものも含め、完成車メーカーの様々なニーズを柔軟かつ素早く充足していくことが可能となる。

 そして、開発における要素技術の体系化に加えて、評価プロセス、生産技術、生産設備などの共通化も設計に織り込んでおくことも重要だ。多くを自社リソースで賄うサプライヤーにとっては完成車メーカーにも増して収益力を大きく左右する要因となるからだ。

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