このように進化を遂げてきた保全方式だが、第三世代の保全方式は、欧米の航空・電力業界が先行して導入を進めてきた。これらの業界で保全費用削減や、稼働率向上など、保全合理化に対するニーズが早い段階にて高まったためである。近年では、メーカーやインフラ業界などでも注目を集めており、高度な保全方式は広まりつつある。(図B参照)
航空業界は1970 年代から高度な保全方式の導入に着手し、いち早く第三世代のメンテナンスを開始した。当時の航空業界では、航空機の大型化・複雑化に伴い、予防保全コストの増大に苦慮していた。事実、保全費用は営業費用全体の3〜4割、売上高の1〜2割に達し、財務上最大の課題として認識されていた。
航空業界はこれらの問題を解決するべくRCMおよび予知保全を導入し、大幅な保全コスト削減を遂げた。例えば米軍では、1970〜90年代にかけて予知保全を導入し、燃料費・人件費が大幅に高騰する事業環境下でも保全コストを維持することに成功。また、RCMの導入により、28日周期・56日周期に実施する保全作業の所要時間を大幅短縮し、年間保全時間を3分の1以下に削減した。(図C参照)
航空業界に続いて、第三世代保全方式の導入に着手したのは電力業界であった。そもそも、電力業界では高稼働率の維持が非常に重要な経営指標となっている。故障による稼働率低下は大きな損失要因となることに加え、信頼性の観点からも運転をできる限り止めないことが競争力の根幹となる。それゆえ、信頼性は確保しつつ、稼働を止めるSDM(シャットダウンメンテナンス) の周期をできる限り長くしたいというニーズが存在していた。
保全費高騰や突発故障の増加、グローバル化による競争激化に対する問題意識が顕在化していくことに伴い、1980年代から1990年代にかけて電力業界各社は、保全の見直しに踏み切った。高度化した保全方式導入の結果、多くの導入企業で非常に大きなコスト削減が達成された。これは、予知保全・RCMのコスト削減効果に拠るところが大きい。米電力業界では、事後保全・予防保全と予知保全・RCMの保全コストを比較すると、約2分の1以下となっている。
事実、米Duke Energyでは、簡略化RCMをMcGuire発電所で行い、プラント寿命期間中の保全コストを36億円削減することに成功した。
また、仏EdF では、全発電所58 基のそれぞれ50 系統にRCMを適用し、保全コストを約15〜20%削減。その額は97年に46 億円、2000 年には計70 億円にも上った。その後もRCMを継続実施し、故障履歴と信頼性データのフィードバックを行い、継続改善している。その他、DTE Energyが 設備全体で年2,000万ドル以上の削減、PSEGが 保全費用全体の10%を削減、そしてEntergyが 投資額1 ドル当たり年8 ドルの利益(ROI) を享受するなど、あらゆる企業が予知保全導入によるコスト削減に成功している。
そして、最近、第三世代の保全方式に関心を強めているのが、メーカーやインフラ企業である。2000年代以降、航空業界や電力業界に次いで、メーカーやインフラ企業において改めてこれらの保全方式に関心が高まっている背景には、複数のトリガーの存在がある。具体的には、故障の複雑化と保全費用の高騰グローバル化による競争激化、既存設備の老朽化、保全管理者の不足、センサの技術進化・低コスト化やビッグデータ処理技術の進展などがその要因として挙げられる。
欧州の先進メーカーの一部は、予知保全を目的として高度なCBMシステムを導入し、既に保全コストの3割軽減に大きな効果をあげている。例えば、フィンランドの船舶・発電所のエンジン製造を行っているWartsilaでは、CBMシステムの導入によって大幅なメンテナンス費用削減の蓋然性を実証した。
具体的には、地上の中央管理室で、船や発電所から随時送られてくるデータを基に、将来的なメンテナンスの必要性と対応方法等を分析できるCBMシステムを導入した。センサから一定期間ごとに送られるデータは、各装置の通常データと比較検討され、通常の数値から著しく乖離している場合は報告される。
船や発電所のエンジンシステムの運転状況に応じてパラメータを最適化できるため、燃料の使用を約5%削減することが可能だと明らかになった。加えて、20%のメンテナンス費削減も十分に達成できることも実証された。
また、スイスでブレーカー処理を行うABBでもCBMシステムを導入し、大幅な保全期間の縮小に成功した。具体的には、独自開発したCBMシステム“MyRemoteCare” を、ブレーカー装置などに導入した。ABBのエンジニア及びオペレーションチームは、装置上のセンサから得た情報を常時モニタリングすることで、問題箇所の発見〜解決・処置までの期間を大幅に短縮することに成功。事前に想定される故障のシミュレーションや、対応するために必要な措置も予め検討していることから、事後保全に比べ、補修作業にかかる準備期間も劇的に減少した。
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明治学院大学 経済学部准教授