創業期はもちろん、社長1人で営業に歩き、書類をつくってハンコを押し、事業を切り盛りしなければならない。また、社長1人で面接をして、部下の育成にあたっていたに違いない。創業期とは知ってのとおり、事業が市場に受け入れられる時期のことだ。それらの仕事を社長1人で続けてしまえば、会社は永遠に創業時から抜け出すことはできない。
お客さまも増え、商品やサービスも複雑になり、社員も増えれば、経営者の仕事を1人で仕切ることはできなくなる。ゆえに、事業の成長に伴って、社長の仕事は大きく変えていかざるを得ない。成功した事業が停滞してしまう状況を招かないで済むいい方法があるのなら、それは多くの社長が聞きたいものだろう。現実どうすればいいのか?
ドラッカーはこう言っている。「対策は簡単である。トップのチームを前もって構築しておくことである。チームは一夜にしてならず、機能するには時間がかかる。相互信頼と相互理解が必要である。そのためには数年を要する。私の経験では3年はかかる。」
トップのチームとは、「経営の仕事を複数人の協力関係によって進められる状態のこと」だ。さらに噛み砕いていえば、「何をやるべきか決まっていない状況の中であっても、それぞれが、何をやるべきか考え、自ら行動を起こして、お互いに支え合っている状態のこと」だ。事業を成長させていくために必要な知識や能力を充足するために、経営はチームで進めなければならない。経営はチームによって成り立つ仕事だからだ。
とはいえ、経営チームは新しい部署をつくることとは勝手が違う。部門を設けて人を任命したからとって、その瞬間から経営がチームとして機能するものではない。人はそれぞれ考えをもって仕事をしている。チームは、「人の集まり」ではなく「考え方の集まり」だ。
加えて、経営チームのメンバーはそれぞれが畑違いであるため、物の考え方も使う言葉も違う。ゆえに意思の疎通が大きな壁となる。時には、意見の食い違いが対立の種火となることもある。経営チームのメンバーがお互いの考えを理解するのにはそれなりの時間が必要なのだ。
お互いを尊重しつつも、チームは「共通の考え」が必要だ。共通の考えを創り出すのに機械的な方程式はない。何事も制度や規則だけで機能させることはできない。誠心誠意話し合っていく以外にない。ゆえに、時間と労力が必要なのだ。まさに、「チームは一夜にしてならず」だ。
多くの取締役は、名刺に取締役兼○○部長というように、経営の仕事と現場の仕事を兼任している。取締役という役割を担いながら、営業出身の人は客先を訪問し、経理出身の人は相変わらず毎日電卓を叩いている。
取締役は担当部門の仕事が忙しく過ぎて、経営の仕事に割り当てる時間はない。だから、取締役は経営の仕事に手が付かない。そして社長はこう勘違いする。うちの取締役は経営意識が低い。経営者たる自覚をもってちゃんと経営の仕事にあたってほしい、と。取締役にないのは意識ではなく時間なのだ。
ほとんどの経営者が、マーケティング部、財務部といった1つの分野の仕事を経験して経営者に昇格している。経営者になった途端、仕事の勝手がガラリと変わる。この勝手の違いに大きな戸惑いを感じる。しかし、その戸惑いに立ち止まってはいられない。
頭も体も馴染みのある仕事に引っ張られ、過密なスケジュールを日々で駆け抜ける中、気が付くと頭の中から経営の仕事は消えていってしまう。こうして経営者の役職に就いている人が数人いながらも、経営の重荷を背負っているのは社長1人となってしまう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授