顧客が増え、商品やサービスも複雑になり、社員も増えれば経営者の仕事を1人で仕切ることはできなくなる。事業が成長を続けるにはトップのチームを前もって構築しておくこと。しかし、チームは一夜にしてならず。
はじめまして。山下淳一郎と申します。私は仕事上、経営者と話す機会が多くあり、先日、あるIT企業の社長からこんな話を聞いた。もちろんご本人に了解を得て可能な範囲でお伝えするが要約すると次の通りだ。
「急速に伸びた事業が今はすっかり低迷している。サービスに新たな工夫を加えたが、思う様に事業が軌道に乗っていかない。組織の拡大に伴って自分のメッセージは社員になかなか届きにくくなった。そればかりか社内の意思疎通は混乱し、決めたことが実行されなくなった。社内調整に追われる日々が続いた。かつて意欲の高かった社員の士気は衰え、退職者も増えた。上昇気流に乗ったあの時の熱気は今となっては会社に見る影もない。」
その社長は、まだまだやるべきことはある。次はどんな手を打つべきかと、鋭いセンサーを研ぎ澄ませながら、今日も奮闘している。優れた社長が全力で仕事にあたっても、なぜこのような苦境に遭遇してしまうのか?
ドラッカーはこう言っている。「まさに確立した事業として成功し成人したかに思われたそのとき、理解できない苦境に立つ。製品は一流、見通しも明るい。しかし事業は成長しない。収益や財務体質などの面で成果があがらない。原因は常に同じである。チームとしてのトップマネジメントの欠落である。企業の成長がトップ1人でマネジメントできる限界を超えた結果である。いまやトップのチームが必要である。実際にはそのときすでに適切なチームがなければ手遅れである。生き延びることで精いっぱいになる。たとえ生き延びたとしても、不治の機能不全に陥るか少なくとも数年は出血が止まらない。士気は衰え、従業員は幻滅し、熱気は失われる。」
経営者の「考えること」はあまりにも多岐にわたり、「決めること」は極めて複雑だ。複雑というのは、けっして難しいということではない。むしろ複雑なことをシンプル考えることは多くの経営者が得意としていることのひとつだ。
ここでいう複雑とは、こちらを立てればあちらが立たず、あちらを立てればこちらが立たずという類のもので、何か決めようとする時、物事は複雑な事情が混み入っていて、いろいろな都合が絡み合っているという状況の厳しさのことだ。加えて、やらなければならないことを考えると、経営者は体が2つあっても3つあっても足りない。仕事の早い社長がフル回転で仕事をこなしたとしてもこなせる量にはおのずと限界がある。
どんなに優れた社長であっても得意なことと得意でないことがある。たとえ全知全能を発揮したとしても、できる仕事の種類には限界がある。経営者の仕事は、量から考えても質から考えても1人の人間でこなせるものではない。経営は1人では不可能なのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授