じっくりと徹底的にお客さまの声を聞くことで見つけたヒントから、深層心理を読み解いたサービスが生まれる。熱狂的なファンはこうして生まれる。
ヤッホーブルーイングは、長野県軽井沢に本社を置くクラフトビールメーカーだ。看板製品の「よなよなエール」や、女性をターゲットにした「水曜日のネコ」、ローソン限定発売の「僕ビール、君ビール。」などユニークなネーミングやパッケージデザインが特徴的な製品ラインアップ。
8年間の赤字経営から復活を果たし、11年間増収増益を達成。これまでのビールのイメージを覆し、熱狂的なファンを生み出す施策はどのようにして生まれたのか。社長の井手直行氏に聞いた。
井上 クラフトビールの会社を作った経緯を教えてください。
井手 もともとは、星野リゾートの代表である星野佳路がアメリカ留学中に出会ったエールビールのおいしさに感動したことがきっかけなんです。すべての原点になったこのビールを私も1997年の創業当時に飲みました。コクがあり、華やかな香りがして、従来の日本のビールとはまるで違うものでした。日本にもこういうビールを広めたいという星野の強い思いによって、ヤッホーブルーイングができました。
井上 創業当時はどのような状況だったのですか。どのような変遷を経て、現在のヤッホーブルーイングができたのでしょうか。
井手 以前から知り合いだった星野に誘われ、創業メンバー7人のうちのひとりとして入社しました。そうして最初に造ったのが「よなよなエール」です。それまで日本で造られていた一般的なビールと違い、フルーティな柑橘類を思わせるアロマが特徴の、日本で初めて缶で流通した地ビールです。ヤッホーブルーイングの看板製品になっています。
創業後しばらくは地ビールブームのおかげで、営業をしなくても売れる時代が3年ほど続きました。しかし、その後売り上げが急降下し、どん底の時代を迎えることになります。本当にこのビールは売れるのかという疑心暗鬼の雰囲気が社内を支配し、辞めていく人もたくさんいました。
そんなどん底の時代の中でも、「クラフトビールを日本に広めたい」という星野のクラフトビールにかける思いは変わりませんでした。そんな思いを知り、できることはなんでもやってみようと、本格的に始めたのがインターネット販売だったんです。営業をしても、問屋、酒屋、スーパーどこにも相手にしてもらえず、インターネット販売が最後の手段でした。もう自分たちで直接売るしかないと思いました。
井上 現在では、楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤーを9年連続受賞するまでに業績を伸ばしていますが、インターネット販売を行う中で、どのような気付きが今に結び付いているのでしょうか。
井手 楽天市場のショップに本格的に取り組み始めたのは2004年のことでした。日々、問い合わせに対応したり、メルマガを送ったりする中で、直接お客さまからの声に触れることが増えました。少し手を抜くと、すぐに指摘があります。その反面、喜んでくれるお客さまもたくさんいることに気付くことができました。私たちの取り組みに対して、怒って、褒めて、応援してくれる人たちがいることが分かり、自分たちのビールへの自信を取り戻すことができたように思います。インターネット販売に本格的に乗り出したことによって、お客さまのことをどんなときも明確に意識できるようになりました。
井上 インターネット上において、ファンを増やすために行ったことを教えてください。
井手 何もしないで放っておくだけでは、誰もホームページを訪れてはくれません。どんなことでもいいから、目に留めてもらい、記憶に残して、口コミで広げてもらう必要があると考えました。広告を出す予算がなかったので、自分たちで製品のPRができないかと行ったのが表彰式での仮装です。
ビールの味を評価してもらうことが多く、いろいろな品評会で受賞しました。その表彰式で奇抜な格好をして、注目を集めました。周りの人たちがスーツの中、目立つ格好をすると授賞式がとっても盛り上がります。写真を撮って、ソーシャルメディアで拡散してくれる人もいます。この仮装の文化は今でも続いていて、これまでさまざまな仮装をしてきました。埋もれている中で、少しでも目立って知ってもらおうと、思いつくことなら何でもやってきました。社内ではこういったプロモーションを「知的な変わり者PR」と呼んでいます。私たちの会社を象徴する文化です。
井上 話題になった企画にはどのようなものがありますか。
井手 「夫婦で幸せ50年セット」という企画はいろいろなところで反響をいただいた企画のひとつです。夫婦2人で50年間ビールを飲み続けるとして、その総額は約750万円になります。それを史上初の300万円引きで提供しますというキャンペーンです。大幅値引きする代わりに、購入時に450万円現金一括払い、ご夫婦のどちらかの生存が確認できなくなったら権利はく奪という条件を設けました。
この企画はとても盛り上がり、お客さまからたくさんのお声をいただきました。お客さまとの面白いやりとりを公開してみたり、要望に応じて締め切りを伸ばしたりもしました。残念ながら申し込み者はおらず利益はゼロでしたが、本当にたくさんの人に目に留めてもらい、興味を持ってもらえるプロモーションとなりました。
井上 アイデアが豊富だからこそ、ファンを増やすことができるのだと思います。多少ぶっとんでいても、他とは違うということを奨励する雰囲気が社内にあるのですね。
井手 常識にとらわれず、常に常識を越えることを奨励しています。リスクを取り、まだ誰もやっていないことにチャレンジしていこうという考えが根付いていますね。
私たちの会社では、毎年売上げ目標を前年比40%増に設定しています。40%増収というと、普通のやり方では、到底通用しないのが明らかです。常識にとらわれてしまえば、目標の達成は不可能でしょう。それまでにやったこともないようなことを考え出し、実行するしかないんです。新しいことを考えて、常に前向きにというマインドを社員全員で共有しています。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授