井上 リアルな場では、お客さまとどのようなコミュニケーションを取っていますか。これまでに行ったイベントで最も盛り上がったものは何ですか。
井手 普段から赤坂見附にある「YONA YONA BEER WORKS」というよなよなエールの公式ビアパブで定期的にファンイベントを行っています。しかし、お客様からは「参加したくてもすぐにチケットが売り切れてしまう」という声をたくさんいただいていました。
そこで、もっとたくさんのお客さまに参加してもらえる大規模なイベントを企画したいと考え、2015年の5月に北軽井沢のキャンプ場を貸し切り、「超宴」という1泊2日のイベントを開催しました。構想に2年を費やし、社員が考え抜いたあらゆるコンテンツを詰め込んだイベントで、全国から熱狂的なファン600人が集結しました。
ヤッホーブルーイングのビールが飲み放題なのはもちろん、音楽ライブやファイヤーパフォーマンスなどを行い、満足度が極めて高いイベントとなりました。参加費5000円に加え、宿泊費、交通費を負担してまで集まってくれるファンがたくさんいることに感動したのを覚えています。
井上 お客さまの要望に応えるために工夫していること、取り組んでいることはありますか。
井手 じっくりと徹底的にお客さまの声を聞くことを大切にしています。楽天市場のショップでは、お客さまからのレビューがたくさん集まります。そのレビューから、新しいサービスに結び付くことも多いです。レビューを徹底的に読み込んで、見つけたヒントは、お客さま自身も自覚していない深層心理に基づいています。私たちはじっくりと1〜2時間話を聞き、お客さまの声を引き出すことで、深層心理を読み取ります。数よりも深さが大切なんです。
井上 そういった姿勢がローソン限定のビール「僕ビール、君ビール。」の成功につながっているんですね。
井手 「僕ビール、君ビール。」は若者をターゲットに、ローソン限定で発売したビールです。若者のビール離れが進む中、このビールは大成功を収め、先日、「2015年日経優秀製品・サービス賞」の「優秀賞 日経MJ賞」を受賞しました。
この製品の開発にあたっては自分たちで市場調査を行いました。全て自分たちで丁寧にお客さまの声を聞いていきました。じっくりと話を聞くので、人数は限られます。しかし、大量のアンケートから表面上の共通項を知るだけでは、「僕ビール、君ビール。」が生み出されることはなかったと思います。若い果実のようにフレッシュでジューシーなアロマのビールは、私たちが直接お客さまの声を聞いて向き合い続けてきたからこそ、生まれた味なんです。
井上 他とは一味違うビールを中心に、独自のカルチャーを生み出し続けているからこそ、ファンがどんどん増えているのだと感じました。
井手 私たちがしているたくさんの取り組みが積み重なり、その打ち手ひとつひとつが同じ方向を向いているからこそ、他には絶対に真似できないものを作り上げることができているのだと思います。その中のひとつを真似したところで、大した効果は期待できないでしょう。
私たちは、ビールを中心としたエンターテイメントを提供する会社です。メーカーとしての視点が他とは違うんです。この道をこのまま極めていけば、さらに誰も追随できない企業になれると信じています。
井手社長のお話を伺う前は、ヤッホーブルーイングは大手には出来ない戦略として、目立ったPRをしたり、奇をてらう方法で販売を伸ばす会社だと思っていました。しかしそれは表面に出ている一部でしかなく、徹底したお客さま目線が存在している。それはお客さまへの深いヒアリング、ファンコミュニティ化、製品開発まで、真に顧客が喜ぶことを実践している事で理解し易い。大手には出来ない弱者の戦略ではなく、本来大手ビール製造会社がやるべき事を、ヤッホーブルーイングが実行しているのではないかと感じました。またそのためのチーム作りは他に類を見ないほど考えられており、この会社の増収増益に目がいきがちだが、それを支えているチームビルディングこそ見習うべきところである。ヤッホーブルーイングは、エールビールだけを売っているのではなく、ビールを通した人の文化を創り出しているのだと心から感じました。
井上敬一
ブランディングコミュニケーションデザイナー
株式会社FiBlink代表取締役
兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、WEBセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済を牽引する役割を目指す。
圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。
主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授