戦後すぐの1946年に創業した学研ホールディングス。「荒廃した日本を立て直すのは子どもたちの教育から」という理念のもと、日本の教育を支え続け、教育分野に特化した出版社としての確固たる地位を築き上げた。1カ月で670万部を発行した小学生向けの雑誌『科学』『学習』をご存じの方も多いだろう。現在では、教育分野だけではなく、趣味・実用・ビジネス・エンターテイメントなどあらゆるジャンルにおいて出版事業を行っている。70年にわたり日本の教育に貢献してきた背景には、会社としてのどのような信条、取組みがあったのだろうか。
井上 学研は、長い歳月をかけて、日本の教育の土台を築いてきた会社だといっても過言ではないと思います。サービスをつくり出す上で、最も大切にしてきたことはなんでしょうか。
宮原 常に子どもたちの立場に立ってものづくりをするということです。お母さんを喜ばせる教材ではなく、子どもたちに必要なものは何かを徹底的に考え、成長に必要な教材をつくり続けています。目先の簡単な問題ばかりではなく、その子のためになる考えさせる問題が入っているのが私たちの教材の特徴です。
このような教材づくりへの思いは、創業当時から受け継いでいるものです。教育者であった古岡秀人氏が日本の復興には、未来を担う子どもたちの教育が必要不可欠だという思いから学研を創業しました。小倉から上京し、教材をつくり始めたのです。70年経った今では教育分野に主軸を置きながらも、あらゆるジャンルにおいて出版事業を行っています。
井上 子どもたちの立場に立った教材づくりをポリシーとしているからこそ、教育を提供する会社として一定の地位を築くことができたのだと思います。「子どもたちの立場に立った教材づくり」についてもう少し具体的に聞かせてください。
宮原 現在は貨幣価値が上がり、サービス、商品を提供する側は、お金を払う人たちのためにつくる傾向が強くなってきています。教育の分野でいうと、お金を払うのは保護者ですので、保護者を喜ばせる教材づくりということになります。それでは、子どもたちの成長を助けるような教材づくりはできません。保護者を喜ばせるのであれば、すぐに解ける問題しか載っていない教材をつくればいいのです。そのような教材を与えられ続けた子どもたちは将来どうなってしまうでしょうか。よい影響はないはずです。
今日、1時間勉強できたというような一過性の成果ではなく、教育を行う者は、もっと先の子どもたちが大人になるまでの過程を見通さなくてなりません。そのためには、簡単に解けるような教材ではなく、子どもたちに考えさせる問題を取り入れることも必要になります。このような考えで教材づくりをしている会社は、日本にはもうほとんどないでしょう。マーケティングの視点から見ると、私たちの経営は、ほめられたものではないかもしれません。しかし、教育という分野で事業を行っている以上、効率や利益だけで事業を行うことは適切ではないのです。創業70年間、伝統として受け継いできた愚直なまでの子どもたち目線でのものづくり。これが学研のDNAになっています。
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