日本型インダストリー4.0+α お客様起点の付加価値創出への道筋視点(1/3 ページ)

IoTやデジタル化はお客様の状況を捉えたり、経験や対話を記録したりする道具だ。これらの情報を活用して付加価値を高めたり、素早く生み出したりすることができる。

» 2016年04月11日 08時00分 公開
[長島 聡ITmedia]
Roland Berger
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日本企業ならではの新たなビジネスモデル

 欧州のインダストリー4.0 は、工場の生産性を飛躍的に高め、製造業を復権させる取り組みである。工場を起点にサプライチェーン全体を見える化し、自動化や新たなプロセスの構築を通じて非効率を取り除く。そして、顧客嗜好の移り変わりを先読み、モジュールを事前に設計・準備する。さらに、製品を構成するモジュールに加えて、それらを組み立てる生産設備のモジュールをも準備するのだ。最後に、それらの組み合わせで様々な顧客ニーズを素早く満たしていく。

 一方、米国にはインダストリアル・インターネットという取り組みがある。これも、IoT、デジタル化による効率化と付加価値創出を狙っているが、軸足の置き方は大きく違う。欧州は工場起点だが、米国はデータ起点だ。ビッグデータを活用した新たなビジネスモデルの創出を第一の目的としている。しかもデータの活用範囲は、特定の業界内に留まらない。異業種とも積極的に連携して顧客がお金を払ってくれる新たな価値を模索している。

 こうした動きに対して日本企業はどうすればよいのだろう。その解として以前より弊社は日本型インダストリー4.0 を提唱してきた。一言で表すならば現場力を活かしたお客様起点の付加価値創出である。

 モノづくりの枠を超えて、製品やサービスの購入検討から購入そして利用を通じてお客様との接点を能動的に拡大、様々な未充足ニーズに対して、バリューチェーン一丸となって付加価値を追及する取り組みである。お客様起点で製品の価値、その製品を含むシステムに求められる価値、ライフサイクルで求められる価値を高めていく。さらに、製品の新たな使い方で得られる価値、未使用時に創出できる価値、製品の使用データが生み出しうる価値なども含めて様々な付加価値を追及していく。

 ここでIoTやデジタル化は、お客様の状況を捉えたり、お客様の経験や対話を記録したりする道具だ。また、そうした情報を活用して、お客様へ提供する付加価値をより高めたり、バリューチェーンの連携を強化して素早く生み出したりする道具だ。

誰にどんな付加価値を突き詰めるか自社の「ありたい姿」の定義

 顧客起点の付加価値を創出するにあたって、なによりも先に決めるべきは、自社がターゲットとするお客様とそのお客様に提供したい付加価値だ。生活の中で、お客様の気持ちや心の中でどんな存在感を示したいかを描いてみることである。

 身につける、食べる、住む、移動する、働く、学ぶ、遊ぶ、運動する、健康を保つなどといった生活シーンのどこに着目して付加価値を提供するのか。誰に愛されるブランドになりたいか。幅広いお客様か、それとも特定のお客様を対象にするのか。今持っている製品・サービスを活かして、拡張して、どんな存在感を発揮したいかを決めることだ。自らがこだわりを持って提供するところと、他社と協調して提供するところの大よその切り分けもあると良い。

 発揮したい存在感が決まったら、現在とのギャップを把握する。そもそも提供できていない価値は何か、提供しているがあるべき姿からズレている価値は何か。価値はズレていなくても提供するタイミングがズレているのは何かを見える化するのだ。さらに、そうしたギャップを競合に対して、どれだけ小さくできたかという視点も重要だ。

 どうすれば、ターゲットと定めたお客様にとって最も大事なブランドになれるかを明らかにしていく。言い換えると、どうすればそうした価値が欲しいお客様が最初に思い出すブランドになれるかをデザインしていくのだ。その際、「同じ価値を安く」ではなく、「より高い価値を高く」を追求することが重要だ。付加価値は提供し続けると、付加価値でなくなる。常により高い付加価値を生み出し続け、より大きな満足と対価をいただく好循環を回していくことが不可欠だからだ。(図A参照)

あるべき付加価値創出の道筋

お客様との接点を増やして存在感を出す

 ターゲットとするお客様と提供する付加価値の範囲を大よそ定めたら、お客様との接点をデザインしていく。接点はどのくらい確保したいか、インパクトのある接点と普通の接点をどう組み合わせるか、他の製品やサービスから奪うべき接点は何かなどを描いていく。製品・サービスでポートフォリオを組んで、接点に厚みを出していくこともできる。

 一方、接点の目的は、単に色々な製品やサービスの提供に留まらない。ニーズの変化をしっかりと掴むという「先読み」や、提供したい価値をお客様が欲するように「引き寄せ」を行うことも重要だ。特に、価値提供にかかるリードタイムが長い製品やサービスの場合には、この「先読み」と「引き寄せ」が事業の成否を決める鍵となるからだ。

 「先読み」の接点においては、シナリオプランニングによるマクロトレンドの把握やビッグデータによる消費嗜好の分析に加えて、製品やサービスの叩き台を見せながら対話をする。ニーズにぴったりと合うように新たにデザインしたもの、これまでの常識とズレをもたせたもの、構成要素を異なるバランスで組み合わせたものなどを叩き台として提示する。

 消費財など原価が安く、トライアンドエラーが効くものは試作品を作ってどんどん試してもらう。耐久消費財や生産財など原価が高くリードタイムが長いものはデジタル空間上でバーチャル体験をしてもらう。今あるものに上手に手を加えて部分的な検証のみ行うというアプローチも有効だ。こうした「先読み」の接点は、同時に「引き寄せ」の接点としても機能させる。専門家の意見や群集心理を上手く活用したり、お客様との対話を繰り返したりすると、お客様をいつのまにか叩き台へと「引き寄せる」ことも可能となるはずだ。

 存在感を発揮したい付加価値領域で、お客様が役に立つ情報を閲覧したり、日々の体験を記録・共有したりするシステムを構築することで接点に厚みを生み出すことができる。そこからお客様の好みやそのレベルを把握することもできる。お付合いの深さでインセンティブを変えるロイヤルティプログラムを作れば対話に勢いがつく。情報の一部は他業界の企業とも共有できる領域だ。積極的にパートナーを組んでみることも大事だ。

 また、製品やサービスを、継続的に使うと効果が増大するものに仕立てたり、一定の在庫保有や購入の約束を取り付けることでも接点は拡充される。健康食品などは継続性の事例、冷蔵庫のビール、電車やバスの定期券、車のメンテナンスパックなどは在庫や約束の事例と捉えて良い。もちろん、購入後のお付合いの中で対話を続けることが大切なのは言うまでもない。一方、購入までの時間が長い場合には、ドキドキ感やライブ感を演出して、購入までのプロセスを楽しんでもらえば、満足のある接点が持続的に生み出せるはずだ。

 これらの「先読み」や「引き寄せ」を含む接点ではその厚みやインパクトが重要だが、何より忘れてはいけないことは、全ての接点を俯瞰して、自社の訴求したいブランド価値、存在感と一貫性を持たせるマネジメントである。そのためにもすべての現場で共通言語を持ち、自社が訴求したいブランド価値を深く理解して、全接点でその価値を体現する努力を続けなくてはならない。

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