連載
» 2016年04月11日 08時00分 公開

日本型インダストリー4.0+α お客様起点の付加価値創出への道筋視点(2/3 ページ)

[長島 聡ITmedia]
Roland Berger
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価値を高めつつ製品の原価を下げる

 第一にすべきは、提供する製品の付加価値を高めつつ、原価を安くしていくことだ。まず、製品を構成する部品やモジュールを、小型・軽量にする。これによりモジュールの種類が少なくても、それらをつないで組み合わせることで、デザイン面、機能面で多様な製品が生み出せる。また、小型・軽量が故に、結果としての使用材料が少なく、作るときも、動かすときもエネルギーが少なくて済む。一方、構成するモジュールの素性が良いことも極めて重要だ。

 これにより、構造がシンプルで部品点数が少なく、電子制御も最小限で済む、性能の良い製品を生み出すことができるのだ。もちろんシンプルであれば品質も高まる。さらに、デジタルシミュレーション(モデルベース開発) を駆使して、構成する各モジュールの過剰スペックをなくすことで、無駄がない原価も達成できる。

 一方、材料自体の機能が高いと、加工しなくても組み立てなくても良い性能が生み出せる。同時に、工程が少なく組み立てが楽、人や装置の出番が少なくなり、加工費が下がるというメリットが出る。但し、良い材料を使いすぎると原価が上がるので、安い材料を上手く使って加工、組み立てで工夫するか、マテリアル・インフォマティクスなどのデジタル技術を駆使した材料開発で機能をわずかに落として材料コストを下げつつ加工と組み立て工数を減らすといったアプローチが現実的となる。

 また、加工でモジュールをシート状にして、可能な限り二次元で組み立てていくというアプローチも有効だ。バーチャル工場をデジタル空間上に構築すれば、安価なシミュレーションでアプローチの有効性を検証できる。いずれにせよ、材料、加工、組み立ての付加価値配分を上手くデザインすることで、機能、デザイン、品質はそのままに、生産性を高め、原価を下げることができるのだ。さらに、エネルギー効率向上、クリーンエネルギーの利用促進、ゴミ等の排出削減についての工夫も忘れてはいけない。

 こうした工夫を次々に生み出し、原価を下げつつ付加価値を高めていくには、上記のような様々な要素技術が次々に必要となる。ただ、こうした要素技術を全て自前で揃えるとなると著しくスピードが落ちる。特に、既に世の中に存在する技術で自前化にこだわるのは非効率だ。そこで、継続的な付加価値向上に必要な要素技術をロードマップに落とし込んだ上で、外部からも要素技術を集めてくる努力を強化すべきだ。

 自社の要素技術やリソースを見える化して、不足分を外部から補い、競合他社よりも速い付加価値向上を実現していく。速さを得るために自社の各部署および外部の活動、つまり価値創出に関わる全ての活動(エンジニアリングチェーン) を見える化して、連携を促進していくのだ。また、大企業だけでなく、中小企業を取り込んでいくことも極めて重要だ。一方で、自前で持つべきと判断する能力は、能力の見える化を通じた育成プログラムを通じて、しっかりと必要分を確保していくことが求められる。

価値を届けるまでのリードタイムを短くする

 言うまでもなく、お客様との接点を維持、活用していくためには、付加価値創出に必要となる製品・サービスをタイムリーに提供する必要がある。但し、製品やサービスは、様々なお客様の様々な接点で活用していくので、多様性が不可欠となる。また、お客様のニーズは時間と共にその姿を変えていくので、準備すべき製品・サービスのバリエーションはさらに広がる。こうした多様性やバリエーションを素早く安価に提供するためには、先読みに合わせて適切な要素の組み合わせで価値を提供できる「構え」を整える必要がある。

 近年注目されているモジュール設計やモジュール生産の考え方だ。様々なバリエーションを生み出すモジュールを準備しておければ、製品に付与したい付加価値を短時間に生み出すことができる。この原理は、製品だけでなく、サービスでも使える。自社が実現したい付加価値の元となる必要十分な標準作業をセットで定義しておけば、その組み合わせでサービスをスピーディーに生み出していけるのだ。

 一方、製品やサービスの提供にかかる時間は、当然、サプライチェーン全体のリードタイムの総和となる。よって、お客様を待たせないためには、全ての部署がそれぞれの役割でリードタイムを短くすることが重要となる。もちろん、中間製品や製品の在庫、人のスタンバイ人数や時間を増やせばリードタイムは減らせるが、その分コストが上がる。特に製品の場合、最終製品に近いもので持てば持つほど、ニーズと乖離する可能性が生じて、お客様の手元に届くことなく廃棄されればコスト増となる。

 したがって、汎用性の高い要素、モジュールの形で製品やサービスの在庫を持ち、組み合わせ次第で幅の広いバリエーションの製品やサービスを素早く生み出せる「構え」を構築するのだ。また、サプライチェーンの各部署の活動を可能な限り並行して進めることで、実際に掛かるリードタイムを最大限短縮していく努力を続けていくことも忘れてはいけない。

意味のあるタイミングで提供する

 通常、お客様に製品やサービスを提供するリードタイムを短くすればするほど、コストは掛かる。したがって、付加価値に対する価格を魅力的なものにするためには、リードタイムはやみくもに短くするのではなく、お客様にとって意味のある時間に設定することが重要だ。ぴったりのタイミングやインパクトのあるタイミングを見つけて、そのタイミングに価値の提供を合わせ込むことが大事だ。

 ただ、供給サイドの事情を考えると、お客様にとっても、自社にとっても良いタイミングをより能動的にデザインすることが望まれる。例えば、今すぐが嬉しい価値、これまでの常識からみて1週間後でも嬉しい価値、3ヶ月後でも嬉しい価値などを定義していく。こうした期間があれば、供給側も色々な準備ができるので実現可能な打ち手として機能するはずだ。(図B参照)

リードタイムにおける発想の転換

 こうしてタイミングを決めたら、そのタイミングでその価値を提供出来るように、各部署が足並みを揃える必要がある。モジュールや標準作業の組み合わせを工夫して、リードタイムの短縮を図る。加えて、ビッグデータによる需要予測、装置の稼働担保も行いつつ、在庫を可能な限り持たずに、設定したリードタイムに合わせ込んでいく。

 さらに、それぞれの部署が今、何をしているか、どのくらいの空き稼働があるかなど、需給連鎖(サプライチェーン) の見える化を行っておけば、今、目の前にいるお客様に設定したリードタイムの約束を果たすことができるかを瞬時に把握できる。加えて、自社のみならず、外部の設備やワーカーの空き状況を常に把握し、活用可能な状況にしておくことで、よりたくさんのお客様へ設定したリードタイムでの付加価値提供が可能となるのだ。

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