「その建物のこと何でも知ってます」――現場データの見える化が西松建設のIT活用の鍵「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(1/2 ページ)

創業から140年以上の歴史で培った技術を活かし、土木、建築、開発・不動産のコア事業からレタス栽培まで、常に新しいプロジェクトにチャレンジする西松建設。同社が目指すIT活用とは。

» 2016年06月29日 08時00分 公開

 1874年の創業から、140年以上の歴史を持つ西松建設。「培ってきた技術を活かし、価値ある建造物とサービスを社会に提供することで、安心して暮らせる持続可能な社会・環境づくりに貢献する。」という企業理念に基づき、土木、建築、開発・不動産の分野で国内事業を展開。また海外事業では、50年以上前から東南アジアを中心に進出している。

 さらにグループ会社であるサイテックファームでは、玉川大学との共同研究の成果として、LED照明を使ったレタス栽培を展開している。そのほか2015年度より、事業創生部を立ち上げて、建設事業以外のプロジェクトが進行中。また、2017年度にオープン予定のショッピングセンターでは、建物の建設だけでなく運営にも関わっていくことを明らかにしている。

 1983年に西松建設に入社し、建設現場の施工管理を経験したのちに、土木設計部門や技術営業部門、技術管理部門、土木事業企画、情報システム部など、現場と技術をバランスよく経験し、現在は西松建設の社長室 ICT企画部長を務める古村文平氏に、西松建設におけるIT戦略や建設業界の現状と未来などの話を聞いた。

製造業と同様にサービス化に向かう建設業界

――まずは、建設業界の現状についてうかがいたい。

西松建設 社長室 ICT企画部長 古村文平氏

 これまでのように高品質の建物を造るだけでなく、現在はメンテナンスや運営、更新などを含めたライフサイクルのサポートも求められている。例えば、高度経済成長期に造られた公共インフラの多くが50年を迎え老朽化が進んでいる。今後も使い続けるために点検、補修、改築を実施しなければならないが、財政難や技術者不足の問題がある中、民間の創意工夫による品質確保とコスト削減が期待されている。

――2020年には東京オリンピックが控え、建設ラッシュとなっている。オリンピック終了後はどのように変化すると想定しているのか。

 東京オリンピックに向け、街や建物の整備が行われている。事業拡大のチャンスだが、就労者不足が深刻だ。労働環境や賃金の改善、安全向上は業界上げての取組みで、女性や若者たちを含め多彩な人材の確保が重要だ。

 2025年には必要な就労者数の1割にあたる35万人が足りないといわれている。そこで、さまざまな施策に加えて、ITの活用による生産性向上、労働環境改善が期待されている。更に、ライフサイクル全般を通し、施設の保有者や利用者に付加価値を提供するサービスがビジネスチャンスにつながると思われる。

現場力の向上にいかにITを活用するか

――建設でも、設計の段階で3Dプリンターやドローンを使うなど、新旧テクノロジーの融合がビジネスに大きく影響してくると思う。建設業におけるIT活用の現状についてうかがいたい。

 国土交通省は、建設現場でITを全面的に活用することで、建設生産システム全体の生産性を向上し、魅力ある建設現場を目指す「i-Construction」の取り組みを推進している。例えば、ドローンで現地を測量し作成した3次元データと、設計3次元データとの差分をICT建設機械で切り盛りするICT土工がある。国交省は今年度からICT土工の発注を開始した。

 各建設会社では以前よりこれらのIT活用を試行しており、技術者育成やコストの課題に取り組んでいるが、ここに来て背中を押されることになった。

――現在、西松建設のIT部門の課題は。

 生産性の向上に、いかにITを活用するかが最大のポイントといえる。これは、IT部門だけの問題ではなく、事業部門、現場を含めた会社全体の取り組みとして推進しなければ成果は得られない。事業部門との連携が重要だ。

 弊社では、技術戦略会議という部門横断組織をスタートさせた。各部門のリーダーが参加し、方針と施策を決定、この施策が役員会議で承認されれば、トップダウンで実践する。その内容は、施工管理の効率化、技術継承のための情報活用、BIM/CIM推進、自動化ロボット化などの生産性向上に関する取組みのほか、建物の付加価値向上や新規事業に向けた技術開発と範囲が広く、どれもIT活用が必須の内容とも言える。

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