一生懸命頑張っているのに、なかなか売れない人。あまり頑張っていないのに、なぜか商品が売れている人。その違いは?
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
18年前。36歳になったばかりの私は、マーケティング職に異動になりました。
それまで「マーケティング」という言葉は聞いたことがあるものの、それが何なのかはまったくチンプンカンプン。セールスとマーケティングの違いもよく分かりませんでした。そこで、生まれてはじめて書店でマーケティングの本を買いました。
「よし! これからマーケティングでバリバリ仕事だ。勉強するぞ」……と気合いを入れて読み始めたのもつかの間、いきなり1ページ目で「うっ……!」と唸り声をあげました。その本は、こんな文章のオンパレードだったのです。
「マーケティングは、マーケティングミックスという4つの要素から構成されている。商品(Product)、チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)、価格(Price)である。マーケティングミックスのことを、これら4つの頭文字を取って4Pと呼ぶこともある……」
「なんだこれ?(汗)」というのが、当時の私の率直な感想でした。その後もまるで呪文のような文章が次々と出てきて、つい眠くなります。
「この歳で、学生時代の暗記学習は辛い……」
それから18年。私はそのマーケティングの世界で仕事を続け、マーケティングの本を書き、「マーケティング戦略アドバイザー」という名前で仕事をするようになりました。
ビジネスの世界には、2種類の人がいます。
一生懸命頑張っているのに、なかなか商品が売れない人。そして、あまり頑張っている感じはしないのに、なぜか商品が売れている人です。
例えば、あなたは腕時計をしているでしょうか?
先日電車に乗ったときにふとつり革を見たら、ほとんどの人が腕時計をつけていませんでした。思い返せば30〜40年前、私が学生の頃はほとんどの人が腕時計をしていました。当時は、正確な時間を知るために腕時計は必須アイテムだったからです。でも今やスマホで時間はすぐに分かります。
かつては、ほとんどの人が「正確な時を知る」ために腕時計にお金を出して、つけていました。その頃の時計は結構時刻が狂ったりしていたので、正確な時計は重宝されていました。いまやこれはスマホに置き換えられてしまい、コモディティ化しています。
コモディティ化とは、要はオワコン(終わったコンテンツ)になっているということ。つまり「正確な時を知る」ことはもはや当たり前。それだけでは腕時計にお金を出す理由にはならないのです。
こんな状況で、いくら昔のように「ウチの時計は正確無比です」と一生懸命頑張って腕時計を売り込んでも、まったく売れません。
でもいまだに、世の中で腕時計のCMや広告はよく見かけます。現代の腕時計は、「正確な時を知る」という価値ではなく、新らたな価値を生み出して、お客さんに提供しているのです。そしてお客さんは喜んでお金を出しているのです。
例えば、腕時計の中には、ジョギング専用や登山専用があります。これらは「正確な時刻を知る」というこれまでの腕時計の価値をさらに進化させ、「フルマラソンを完走できるようになる」「厳しい登山の頼れる道具になる」という付加価値を生み出したことで、新しいお客さんを創り出しているのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授