デジタル時代の新規事業着想法――IoT/AI/Fintechを「目的」とせず「手段」と捉えよ視点(2/3 ページ)

» 2017年01月30日 07時30分 公開
Roland Berger

2、優良ベンチャーから得るべきこと

 成長著しいデジタル技術の分野では、ベンチャー企業が有象無象発現し、巨額で派手な資金調達 ・ 投資が繰り広げられている。

 メディアの世界では、世界最大手の定額動画配信サービスNetfilxが芥川賞受賞作品 「火花」の映像化権を獲得、同じく英動画配信大手の Perform Groupが NTTと共同で Jリーグの放映権を従来比 4倍以上の価格で獲得したことは記憶に新しい。 歴史ある大手企業とベンチャーが、戦うフィールドを棲み分け・共存する時代から、確実に同じフィールドで競争 ・協業しなければならない時代へと突入しつつある。

 ベンチャーは、世の中の変化を機敏に捉え、業界関係者からみれば 「不合理」な事業アイデアを、ごく一部の消費者のみに 「合理的」 なビジネスモデルをスピード感を持って構築 ・ 具現化し、ファンを拡げていくことで事業拡大していくのが勝ちパターン。 勿論、成功の裏には、無数の大失敗が潜んでいるが、創業者のみならず資金の出し手であるベンチャー・キャピタルも含めて、失敗を許容しながら、万に一つの大成功で巨額のリターンを得られば良いという発想で世界が動いている。

 翻って、企業文化・社内制度・人材の質等が根本的に異なる大企業が、ベンチャーの成功を再現できる訳が無い。 よく、ベンチャーで成功して話題となっている○○○のビジネスモデルを△△△業界で展開したらうまくいくのでは、といった相談を受けるが、着想のヒントにはなっても、余程自社の経営資源の強みを活かせる分野でない限り、このような短絡的な発想ではうまくいかない。

 大企業が、成功したベンチャーから学ぶべきは、彼らのビジネスモデルを真似ることではなく、協業相手として彼らのケイパビリティを如何に活用しうるかということでは無いだろうか。 新規事業を具現化 強化する際に、日本企業にありがちな自前主義を廃して、優良ベンチャーとの提携により、事業開発スピード ・柔軟な事業構想力・斬新な技術力等を獲得するほうが、得られる果実は明らかに多い。

3、デジタル技術を手段と捉えた新規事業着想の視点

 大企業は、ベンチャーが到底すぐには追いつけない優良な経営資源を多く保持している。 弊社マネジメント・ニューズレター視点91号で論じたように、「顧客基盤」「流通網」「技術」「運営ノウハウ」を活かして、大企業ならではの有利な戦い方で新規事業を着想・創造していくことが、デジタル時代にあっても当然効果的だ。

 それら優良経営資源を最大限活用したうえで、デジタル技術活用型ビジネスモデルの要諦で味付けすれば、複眼的に着想の枠組みを拡げられ、事業構想に深みと実効性が出てこよう。

 デジタル技術を活用したビジネスモデルの要諦は、「要素技術の磨きこみ」 「自社システムの外販」「オープンプラットフォーム化」「サービタイゼーション」となる。 事業着想時の視点は次の通りだ。

  • デジタル技術活用拡大時に必須となるコアデバイス ・テクノロジーは何か
  • 自社オペレーションのスマート化は他社に水平展開しうるだけの魅力を付加できるか
  • 産業 ・業界横断的に横串をさすことで新たな付加価値を生み出せるか
  • 売り方の革新は顧客の潜在的なニーズ ・トレンドを発掘しうるか(図B、C参照)
デジタル時代における新規事業の着想方法
デジタル技術活用型ビジネスモデルと新規事業開発の視点

(1)要素技術の磨きこみ

 デジタル技術は、データの収集・統合・格納・解析・活用といったプロセスを経て、価値を生み出す。 それぞれ優れた要素技術が求められるが、特に、センサー・PLCを中心とした収集技術、PLM(Product Lifecycle Management)に代表される統合技術、それにビッグデータ解析技術がキーとなる。

 例えば、センサーの世界需要は、今後年率2桁成長が見込まれているが、ひとえにセンサーといっても測定対象によって求められる要素技術が全く異なり、オムロン・ロームなどの大手プレイヤーに対しても戦える余地が十分にある。

 眼科向け医療機器や測量機器に強みを持つトプコンは、自らの技術を磨き上げ、精密農業向けセンサー 「Crop Spec」を開発した。 このセンサーは、レーザー照射による反射光で農作物の窒素含有量を測定し、悪天候時や夜間でも広範囲に計測できる。

 後に買収した精密農業システムメーカーの経営資源をうまく融合させることが出来れば、将来的にソリューションビジネスへの進化もできるだろう。 要素技術を磨きこむことで、独自性・優位性を持つデータ収集基盤を構築し、機器自体での収益獲得は勿論のこと、ビジネスの拡がりを実現するための橋頭堡を築いたこととなる。

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