デジタル時代の新規事業着想法――IoT/AI/Fintechを「目的」とせず「手段」と捉えよ視点(3/3 ページ)

» 2017年01月30日 07時30分 公開
Roland Berger
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(2)自社システムの外販

 自社オペレーションのスマート化を実現し、成果をあげたシステムを他社に販売するといった業務効率化の延長線上で新規事業を開発できる、最も手掛けやすいデジタル技術活用型新規事業である。

 裏を返せば、同業他社も同じことを考えている可能性が高く、如何にスピーディー且つ優れたシステムを開発 ・実証 ・ 外販できるかに勝負がかかっている。 これを成功させるには、外部経営資源の活用が必須である。 事業開発・技術等の専門人材を投入することによって、各種調査・検討・企画立案を加速化することは勿論のこと、優れた技術・ノウハウを持つベンチャーや大学等の研究機関との協業を促進し、自社が経験したことの無いような異次元の加速化を実現することが極めて効果的だ。

 その際、過度に完成度に拘ってはいけない。 狭い領域であっても、確実に成果が期待できる商品をいち早く開発し上市することで、商機を逃さず、後から段階的に機能拡張させていけば良い。 併行的に、自社では当たり前でも、他社から見れば魅力に感じられるポイントの特定、さらには他社でも目に見える効果を生み出せるよう商品自体の標準化も行っていかなければならない。

 詰まるところ、日本企業にありがちな「自前主義」「良いモノをつくれば売れる」 といった発想を捨て去り、「外部資源の徹底活用」「完成度よりもスピード重視」「顧客視点での商品設計」を断行できるかが成否を大きく左右する。

(3)オープンプラットフォーム化

 IoT化により、他社・他部門、売り手・買い手を 「つなぐ」 ことが著しく容易になった。 設計者と 3Dプリンタ保有者を「つなぐ」ことで試作品等のモノづくりを容易にしたカブクなど、N対 Nの需給マッチング機能をプラットフォーム化することで成功を収めた事例は数多い。

 大企業でも、GEのPredixやCATのCAT Connectのように、自社システムのOSやDBの一部をオープンプラットフォームとして開放することで、ユーザー ・ ベンダーが自由にアプリを開発しながら、プラットフォームが自己増殖していくことで確固たる事業基盤を構築した事例も散見されるようになった。 このビジネスモデルでは、一義的にはプラットフォーム利用料がマネタイズ手段となるが、むしろ、ビッグデータを梃子としたソリューションビジネスの高度化や製品開発へのフィードバックによる商品力の強化が本質的な狙いとなる。

 成功のカギは、ユーザー数がクリティカルマスをいつ超えられるかにあるが、大企業が手掛ける場合、現業のビジネスネットワーク・データを既に豊富に保有しているため、間違いなく有利なポジションを築ける。 他方、オープン&クローズ戦略の境界線を何処に引くべきかという難問が頭を悩ませる。 全てオープンにしてしまっては、他社に摸倣されるリスク・儲けどころを失うリスクが高まり、極端にクローズにしてしまうと他社がプラットフォームに参加することの意義・魅力が薄れてしまう。 ブラックボックス化すべき領域を的確に定義しながら、最低限何処までオープンすれば他社が魅力に感じるプラットフォームに仕上がるのか、個別の事業環境を慎重に検証・判断するしかない。

(4)サービタイゼーション

 端的に言えば、モノの所有価値ではなく、モノの利用を通じたベネフィットで対価を得る、いわばマネタイズ手段のイノベーションを指す。建機の世界で言えば、建機を売ることで収入を得ることが従来的なマネタイズ手段。 建機を貸すことでレンタル収入を得る、更には建機利用で実現できたコスト削減 ・期間短縮効果の一部を成功報酬的にフィーを徴収するモデルが、サービタイゼーションにあたる。実際、コマツの 「スマート ・ コンストラクション」は、建機レンタル料に加えて、同ソリューション利用料をコスト削減の成功報酬として回収するビジネスモデルを具現化している。

 デジタル技術最大の利点である 「つなぐ」 を活かし、機械稼働状況を監視・制御することで、AIによる最適な自動運転で誰もが高精度・高効率で運転できるようになった。さらに、蓄積されたビッグデータ解析により更に精度・効率を向上しうる使い方へと進化していく。これら一連のシステムを通じて、効果を予め推計できるがゆえに、高度な成果報酬型のサービタイゼーションモデルの展開を可能とした。ある意味で、デジタル技術活用型新規事業の集大成ともいえよう。

 ただ、成果報酬まで踏み込んだサービタイゼーション型ビジネスモデルは他分野で掛け声こそあがれど、意外と事業化に至っていない。 根底には、メーカーやサービス業者にとって、単発の売り切り型ビジネスのほうが手離れがよく、製品を使って成果が出るかは顧客次第と、そこまで責任を負いたくないといった企業姿勢・不安感がある。 加えて、そもそも IoT機器が機械に搭載されておらずデータが取れていなかったり、高度なサービタイゼーションモデルを行うための個別要素技術こそ入手可能であるものの、それらを統合化できるパッケージが存在しないため、手間がかかるという側面もある。

 だからこそ、ビジネスチャンスが眠っているという捉え方が出来るのではないだろうか。 これまで論じてきたビジネスモデルは、パワーゲームが成立しやすく、業界を代表する超大企業のほうが圧倒的に有利なポジションを確保できる。 他方、サービタイゼーションは、失敗を繰り返しながらでも、顧客へのソリューション提供の質を高め、フィー体系の最適化をいち早く行ったものが勝てる領域である。

4、最後に

 本稿を執筆するきっかけになったのは、グローバルプレイヤーの戦略分析を行う度に、製造業を中心とする我が国企業の将来性に不安を感じることが多くなったことに他ならない。

 モノ売りの収益性が断続的に下がる中、グローバルプレイヤーは「モノ+コト売り」で活路を見出し、製品の使われ方 ・ 壊れ方等をデジタルで把握しながら、最終的にモノづくりの競争力をも高めている。 サービス業も然り、「つなぐ」 ことで新たな付加価値を創出し、従来型事業を凌駕するだけのインパクトを持ったビジネスを次々と生み出している。我が国企業に残された時間は少ないが、まだ間に合うと確信している。

 冒頭で述べたように、デジタル技術の進展 ・活用に危機感を覚えながらも、有効な手が打てていない企業はあまりにも多い。 だからこそ、デジタル時代の新規事業開発では、たとえ事業構想の完成度が低くとも、本稿で論じた着想法を参考に、物事の否定から入らず、走りながら軌道修正していく姿勢で、先ずは第一歩を踏み出すことから始めてほしい。

著者プロフィール

五十嵐雅之(Masayuki Igarashi)

ローランド・ベルガー パートナー

早稲田大学理工学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(経営学修士)。米国系ITコンサルティングファーム、国内系コンサルティング・ファーム、三菱商事株式会社を経て、ローランド・ベルガーに参画。総合商社、産業機械、公的機関およびサービス業などを中心に、事業戦略立案、新規事業開発、事業計画・投資評価、マーケティング戦略立案・実行支援、組織構造改革などのプロジェクト経験を豊富に持つ。


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