エネルギーセキュリティ、低炭素社会の実現、エネルギー分散自立型社会の視点から、水素の利用は有意義だ。Hydrogen Hype(一時の盛り上がり)に終わらせないために。
水素エネルギー導入に向けた動きが活発化している。従来からの石油精製や石油化学事業等幅広に用いられている産業用途に加えて、モビリティとしての燃料電池自動車、電気や熱というエネルギー供給に用いる燃料電池、更には水素タービン等での活用の検討が進められている。
背景には、再生可能エネルギー導入促進、及び分散自立型エネルギー社会構築の狙いがある。輸入化石燃料に依存している日本がエネルギーセキュリティを考えた場合の国内エネルギー資源という位置づけ、及びCO 2削減に向けたCO 2フリーエネルギーとしての位置づけ、この両面から再生可能エネルギーの導入が期待される。そこで、再生可能エネルギーの揺らぎを平準化する役割として貯蔵が必要となる中、大規模・長期の貯蔵方法として優位性を持つ水素が有効と考えられる。また、震災時、大規模集中型のエネルギー供給の脆弱性を目の当たりにして、家庭用燃料電池の普及が急拡大し補助金切れになったことは、分散自立型への期待を示すものといえる。(図A参照)
特に昨今、「究極のエコカー」として燃料電池車への期待が高まっている。自動車主要メーカーは2015年から2017年にかけて、量産型の燃料電池車を発売の予定である。トヨタは2014年度内に700万円程度での国内販売開始を発表した。
燃料電池車への水素供給を行う水素ステーションについては、2015年に100箇所の設置が予定されている。岩谷産業は、2015年度までに、東京・大阪・名古屋・福岡の四大都市圏を中心に20箇所の水素ステーション設置を発表しており、先日、尼崎に国内初の商用水素ステーションを完成させた。
政策的支援の検討も進められている。燃料電池車の購入に際して200から300万円程度の補助金支給の方針を固めたという。また、昨年夏の規制改革会議での閣議決定を踏まえて、保安規制に関する規制緩和等の検討が進められている状況である。
燃料電池に関しても、2015年以降の補助金撤廃を目前にして、コスト低減への取組みに余念がない。更に、東芝燃料電池システムが岩谷産業等とともに、山口県で純水素型燃料電池コジェネレーションシステムによるエネルギー供給の実証実験をスタートさせる。家庭向けの出力0.7kWの燃料電池と出力数kWの業務用燃料電池を、山口県周南市を中心に商用水素ステーションに順次設置。長歩工産のボイラー型蓄湯ユニットと組み合わせる。2017年度まで4年間の実証で得られる成果を活用して、純水素型燃料電池システムの普及を目指す。
水素エネルギーに関する課題は、一言で言うと、経済合理性である。技術な観点から実用化の目途は立っているが、ビジネス全体の経済合理性の見通しが不透明である。燃料電池車の事業モデルには、大きくは燃料電池車と水素供給インフラの要素がある。燃料電池車については、FCスタックの耐久性や低温始動性といった技術面の課題が克服されてきており、コスト面についても、2015年には1,000万円を切る水準に達する見通しである。技術・コストの両面で課題は解消されつつあるようだ。
水素供給インフラは、水素製造、貯蔵・輸送、及び供給、の3つのステップからなる。水素製造オプションの中、副生水素、ガス改質、電気分解は、供給安定やCO 2面での課題はあるものの、技術的には実用化レベル。再生可能エネルギーを用いた電気分解には安定性・量産化面での課題がある状況。従って、CO 2等を気にしなければ、実用化は可能である。輸送・貯蔵については、高圧水素、液体水素は現時点でも既に実用化されており、大量・長期の貯蔵を可能とする有機ハイドライドも実用化レベルに近い状況まできている模様だ。供給についても技術面では問題ない。すなわちインフラ側も技術は実用化段階にある。
しかし、コスト面の課題が大きい。現状では、水素ステーション1箇所5〜6億円必要とされる。ドイツでの、1.5〜2億円程度と比べ大きな差がある。固定費負担が大きいこの状況であれば、規制緩和や技術開発によりコスト低減を目指すことは当然必要である一方で、水素ステーションの稼働率を高めていくことが不可欠となる。「ニワトリとタマゴ」ではあるが、燃料電池車の販売台数が読めない中で、水素ステーションの設置・展開を期待されているインフラ系事業者が逡巡しているのもこのポイントによる。トヨタが移動式水素ステーションを展開するとの報道も事実とすればこの点に起因すると考えられ、動いて取りに行くことで需要量を確保し、稼動率を高める狙いであろう。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授