水素エネルギーの利用拡大を目指して視点(4/4 ページ)

» 2014年11月25日 08時00分 公開
[遠山 浩二(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger
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一時の盛り上がりに終わらせないために

 水素の活用は、1990年代のWE−NETから様々な検討が進められ2000年代初頭には数年内に実用化とまで言われたが、実際は現時点でも経済性の課題が残っている。そのため、現在、初期投資のみならず運営費用に対しても補助が検討されている状況にあるようだ。しかし、いつまでも補助金頼みでは企業や投資家の興味を惹きつけることは出来ず、補助金が止まった瞬間に取組みが頓挫する。

 実際、2000年代初頭のアメリカでも「Hydrogen Hype」が起こっていた。

FreedomCAR & Hydrogen Fuel Partnership。2002年に米国エネルギー省長官と自動車OEMビッグ3(GM、Ford、Chrysler)による官民一体の研究開発パートナーシップである。

 当時のブッシュ大統領がこのパートナーシップに対して5年間で17億ドルの研究資金を投じると発表、国として燃料電池車の研究と水素インフラの研究を並行して推進することを表明した。カリフォルニアでも1999年、米欧日の自動車メーカー、石油会社、燃料電池メーカー、カリフォルニア州を中心とした行政組織が参画した、California Fuel Cell Partnershipが発足。共同で燃料電池車の実用化に向けた走行試験や普及活動を実施した。具体的には、燃料電池車の車両走行実験、水素ステーションの導入促進、水素ステーション・車両間プロトコル設定、燃料電池車認知獲得に向けて共同で資料出版等を行った。

 拙速に実用化を進めることを疑問視する声も存在はした。将来的な水素の潜在的優位性として、クリーンであること、豊富な元素であること、広範囲の資源から製造可能であることなどを評価。その一方で、製造・貯蔵に大量のエネルギーが必要で経済性が低い、エネルギー密度が低く入手の効率が低い、安全対策が不十分、との課題が指摘されていた。実用化を進めようとすると、コストの観点を重視して天然ガスから製造することになり、製造過程でCO 2を排出するため、CO 2削減の方向性に逆行する。

Hydrogen Hype 性急な燃料電池車普及活動の負の遺産

 この警鐘にも関わらず燃料電池車実用化を推進した一方で、電池技術の進展によりEVが次世代技術の主役に踊りだす。加えて、法規制の変化によりZEV法でのEVの評価が高まったことで完成車メーカー(OEM)各社の注力領域がEVにシフト。燃料電池車の開発は下火になった。

 結果として、無駄な政府支援、OEMの莫大な開発投資、燃料電池車へのネガティブな認識が残り、その後の燃料電池車開発・普及の足枷になっている。米国エネルギー省は2003年から2010年で累計約1,800億円の支援を行った。GMは燃料電池車に累計1,500億円の開発費を投下。この開発費の配賦を車体価格の1割程度に納めるには数十万台規模の販売が必要といわれる。OEMごとに燃料電池車に対する注力度合いは異なってはいたが、一度頓挫してしまったことで、燃料電池車に対する懐疑的な見方が強くなってしまった。(図D参照)

 この例からも、拙速に実用化を推進して失敗した場合、負の遺産が大きく残ってしまうことが懸念される。国のエネルギーセキュリティ等の観点から重要なこの取組みを一時の盛り上がりに終わらせないためには、経済合理性が成り立つ成功を積み重ねていくことが求められる。そのための知恵と工夫の結集が必要なのではないだろうか。

著者プロフィール

遠山浩二(Koji Toyama)

ローランド・ベルガー プリンシパル

東京大学法学部を卒業後、米国系ITコンサルティングファーム、米国系戦略コンサルティングファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。エネルギー、ITを中心に、消費財・流通、金融、その他の業界を含め国内外の幅広いクライアントに対して、成長戦略、事業戦略、事業ポートフォリオマネジメント、営業戦略、M&A、業務改革、営業支援、ITマネジメント、コスト削減、などの豊富なプロジェクト経験を持つ。


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