低迷する欧州経済内では健闘しているドイツ。産業構成や勤労観が似ているドイツの中長期視点の経営に、強い日本企業を作るヒントを探る。
1990年代の日本――いわゆる失われた10年――に多くの企業が米国式経営を取り入れた。ROA, ROCE, EVA等の経営指標が次々と紹介され、企業はそれらの指標を元に選択と集中に取り組み、短期的に利益を上げ、株主に還元した。そうした観点では一定の成功を収めたと言えるだろう。
しかし、米国式経営は、アメリカ人の勤労観には合致したものの、高度成長期時代を土台にした日本式経営において日本人の勤労観には合っていなかったように思える。
そうした中、我々は低迷する欧州経済内では健闘しているドイツの中長期視点の経営こそ日本人の勤労観にも合致し、強い日本企業を作る上での参考になるのではないかと考えている。本稿では、その要旨をご紹介した上で、日本企業が持つべき視点について論じたい。
1990年代にバブルが崩壊し、1980年代に世界中から注目された日本式経営、即ち秀逸な工場現場をベースとしたカイゼンやJITシステム、ケイレツによる強い結束等は影を潜め、むしろ日本のホワイトカラーの低生産性、マネジメント能力の不在等が注目されるようになった。
そうした中、盛んに紹介された米国式経営は、株主第一主義であった。これはつまり株価を上げるために、外部環境に対して、臨機応変に立ち回ることを求めたものである。
当時の日本式の経営は、バブル崩壊という外部環境の急速な変化に対して対応するすべを持っていなかった。多くの経営者にとってトップダウンで臨機応変に対応する米国式経営は魅力的に映り、次々と導入する企業が増えていったのである。
実際、こうした米国式経営はうまく日本企業を立ち直らせたといえるだろう。というのも、日本企業は終身雇用の下、現場の人材が育つシステムが形成されていたからである。現場が強い上に、トップダウンで事業の選択と集中を進めたことにより、短期的に収益を上げることに成功した。
例えば、日産のカルロス・ゴーンはその象徴として取り上げられることも多い。日産は1999年の経営危機から立ち直り、2002年の「日産180」の達成へとつながっている。
また、パナソニック(当時松下電器) も2000年頃の経営危機により太陽電池の研究開発からの撤退、事業の再整理(13,000人の早期退職含む)により再生への道を進んでいる。
再生ファンドによる買収事例が増えてきたのもこの頃である。海外のファンドにとって、優秀な現場力を備えマネジメント能力の不在だけで苦戦している日本の企業を再生させる事は「easy job」と目に写ったのである。
この20年間で日本人はある程度「米国式経営」のメソドロジーを手に入れたのではないだろうか。
例えばパナソニックでは、その後の円高で迎えた経営危機を津賀社長の下、キャッシュフロー経営による大胆な事業の入れ替えを行い、見事な復活を見せている。
しかし、この間に日本企業がその根本的風土を変えたかというとそうでもないことに気付く。
大企業では終身雇用が相変わらず主流であるし、ケイレツ取引が壊滅したかと言えばそうでもない。
日本の経営者の報酬が米国のCEO並みになったという話も未だに聞かないのである。
企業の風土・価値観とは、国民性の違い、とも言える。それぞれの経営方式の違いと、それを生み出している価値観を図Aにまとめた。
バブル崩壊後の再生が一段落した現在今後長期的に日本企業が海外の企業と戦い、真のグローバル企業を目指しつつ、同時に持続的な安定成長を求める日本企業は多いと思われる。そうした中、米国式経営のメソドロジーを持ちつつも日本企業の根本的風土に合った新しい経営スタイルを模索する必要があるのでないか。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授