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» 2015年05月18日 08時00分 公開

ドイツに学ぶ中長期視点の経営視点(3/4 ページ)

[岡村暁生,ITmedia]

(1)長期思考と市場環境への対応 →外部環境すら自分に引き寄せる考え方を持つ

 これまでの日本の経営(米国式経営) は市場環境は自分で変えることが難しく、その変化に対応することが中心だった。その為、市場が変化しても耐えられるような頑強な経営基盤を作っていくことが主であった。

 その中心は、堅実なコスト削減努力、海外現地生産による為替リスクのヘッジ、サプライチェーンの効率化、事業ポートフォリオの監視と入れ替えなどである。

 一方、ドイツでは長期思考と縦横の連携で外部環境を自らに有利に持って行くという考え方を持つ企業が数多く存在する。

 例えばVWは、10年先を超える将来のニーズを先読みして、ターゲットセグメントや投入すべき重要技術をロードマップとして明確化し、いくつかのパターンに分けて将来の戦略を幅をもって設定している。それらを実現するために車両の6 〜7割をモジュールで切り分け定義し、事前に開発を終了させている。そしてその時々のニーズに合わせてモジュールを巧みに組み合わせ車の大部分を設計し、デザイン等その時々のトレンドに柔軟対応すべき部分に集中するのである。

 さらに、VWでは政府やサプライヤー等の関係者をも巻き込み、その将来戦略、技術ロードマップに誘導するために、政府や競合OEM、サプライヤーなどの周辺プレイヤーを巻き込み自社の思惑に上手く誘導する。

 これはBosch等のサプライヤーも同じ考えで、10年〜 20年先に「OEMが実現したい車」の情報をトップマネジメントから現場レベルで、技術・製品ベースで深く理解し理解した内容に基づき、OEMに先んじて技術ロードマップを策定しその技術にOEMを誘導していくのである(例: 先進安全技術など)。

(2)人員の育成と活用 →国の教育制度が後押ししつつも、企業も人材育成を重視し、競争力のあるオペレーションを実現

 マイスターという言葉は日本でも馴染みがあるが、高付加価値で世界で戦う技術や製品を創り出すには良質な労働力が必要である。

 その点ドイツでは職業訓練から、産業育成に至るまで、数多くの制度を政府が準備している。

 ここでは、主要な2 つの制度を紹介する。

 デュアルシステム:デュアルシステムとは18歳未満の若者のうちギムナジウムという大学などを目指すコースに通う学生以外(約70%) には職業学校への通学義務が課せられており、その際に職業学校に通いながら1週間の内3日は職場で職業訓練生として働くシステムである。若者はその企業の事がわかるし、技能も身につく上、その技能が職業学校の卒業や、次の専門学校に行く上で非常に重要になる。企業も安い労働力の確保及び、将来の学生採用の見極めとして有効活用出来る。

 マイスター制:マイスター制とはマイスター資格を持つ職人が開業や、後進の指導などが出来る制度である。技能の対象は手工業に関するものでも41種類存在し、細分化されており、職人の育成に役立っている。

 更に、そのような政府の後押しに加えて、日本人と同様に「価値観の共有」を重視し、人材を囲い込むのがドイツの特徴であろう。

 例えば、ファミリービジネスが多いのはその一例である。ドイツはMETRO GROUPやHenkelなどの大企業もファミリービジネスだ。ファミリービジネスはそのオーナーの意向や価値観を従業員が強く共有している場合が多い。それにより企業家精神が育ち、従業員同士が団結した強い企業につながっている。

 結果として、前述したHidden Championが数多く存在(世界の2,734社中、1,307社がドイツ。日本220社) しており、企業競争力の原動力ともなっている。

(3)競合との協業 → 国内で争うのではなく、国外で戦う為の仲間

 大小に関わらずドイツの企業が世界で躍進している事は前述した。そのもう一つの原動力が産業内の縦横の連携である。

 元来、ドイツに関わらず欧州の産業界は官学との連携が日本より得意であるが、ドイツではそれが競合する企業との連携にまで発展する。例えばパジャマクラブという集まりがその代表例である。これは「ドイツ自動車産業の発展」をテーマにVWやBMW・Boschなどの経営者・技術者が参画している情報交換の場である。例えば、電気自動車の電源プラグの規格統一・今後の環境規制等についての情報交換をし、方向性を共有し、例えば前述の外部環境の引き寄せのために政府等に対して交渉を進めるのである。要するに「ブランド価値に関係ない部分は一緒にやれば効率が良いじゃないか」ということだ。

 日本では近年、自動車用内燃機関技術研究組合(AICE) という主に将来のディーゼルエンジンの効率向上を自動車各社が協力して研究するという機関が設立され活動を始めたが、その行く末を見守りたい。

 もう一つの例が「Industry 4.0」 である。ドイツが国をあげて製造業の復権に向けて始めた取り組みで、ドイツの産官学の共同プロジェクトとして進められてきた。産業に関わらず横の連携を通じて、政府をも巻き込み、このキーワードの下に、製造業の生産効率の向上を狙う活動である。現在では、ドイツの企業の多くがIndustry 4.0に参画し、最終的には、中国などのアジアでの生産コストを下回ることを目指している。

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