日本型インダストリー4.0 における現場マネジメント視点(1/3 ページ)

日本には世界が認める強い現場があり、人を慮る文化や革新的な要素技術もある。日本の強みを生かした「日本型インダストリー4.0」を推進していく上で、必要となる現場マネジメントについて考えてみる。

» 2015年12月01日 08時00分 公開
[長島 聡ITmedia]
Roland Berger
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 視点105号において、欧州の「工場起点の製造業復権」、米国の「データ起点のビジネスモデル創出」に対して、日本は、ICT技術を活用して、「お客様起点の付加価値創出」を行うべきと結論付けた。購入を検討している時、その後の購入に至るまで、そして購入後の利用を通じて、お客様との接点を能動的に拡大していく。その中で、全ての未充足ニーズや期待に対して、きめ細かく対応する。製造と販売が一体となって付加価値を追求する取り組みだ。

 日本には、世界が認める強い現場があり、人を慮る文化や革新的な要素技術もある。お客様起点を突き詰めていく一連の活動は、日本のこうした強みを遺憾なく発揮していくことのできるアプローチと言える。

 本稿では、この日本型インダストリー4.0 を推進していく上で、必要となる現場マネジメントについて考えてみる。

不要となる単なる管理

 マネージャーが最もやってはいけないことは、単なる管理だ。各部門が予め定めた目標や標準プロセスを忠実に遂行しているかをモニタリングしてギャップの解消を指示する。こんな業務は4.0時代にはなんの価値にもならない。全てはデジタル化によって人の手を煩わせない形で実現可能だからだ。これからのマネージャーの役割は、一朝一夕では真似のできない組織能力を作り上げることである。

 短中長期のゴールを目指して、楽しく自律的に働く、柔軟に連携する日常を生み出していくことだ。少数の天才が人工知能をも活用して事業をデザインしている欧州や米国と異なり、現場の知恵を結集、昇華させて、機動的に事業を組み立てていくのが日本流だ。チェスに代表される一定の枠組みの中での問題解決においては、人間が人工知能に負けるケースはどんどん増えるだろう。

 現実のビジネスにおいては 、お客様の嬉しさなど枠組みに落とし込めないものが多く存在する。したがって、エネルギーに満ち溢れ、様々なアイデアをもつ現場が、高い組織能力を発揮して築できるのは間違いない。マネージャーはそうした組織能力を生み出す鍵を握っている。

マネージャーにとって重要なこと

 したがって、最も重要な役割は、組織に持たせたい能力を、マネージャーが自ら、現場のお手本として実践していくことである。現場の様々な問題を、自分の問題として捉え、自律的に解決策を考える。その際、生み出した価値がお客様に届くまでしっかりと見届けることも重要だ。さらに、一段上のお客様の満足を実現すべく、様々な部門と連携して知恵を絞る。マネージャーには、多岐に亘るこうした能力が求められる。(図A参照)

マネージャーにとって、大切なこと、やってはいけないこと

 また、人間は感情の生き物である。よって自律的に動くためには、褒められた、楽しい、うまく行った、無駄がないなど、達成感を感じられるように活動を設計してあげることも重要となる。お客様に喜んでもらえた、怒られたが他部門のおかげですぐに挽回できた、最近連携がとても密になった、空きリソースを有効に使ったなど、褒めどころはいくらでもある。IoTによる異次元の見える化を、褒めるのための道具として最大限活用すれば、いつでも褒めるネタを探すことができる。さらに、褒められたことをも見える化すれば、組織に大きなエネルギーを吹き込むことが可能となる。

 また、4.0時代においては、デジタル化が進み、部門、個人の活動やその成果が手に取るように見える化される。いつでも周りのことが見え、全体の中での自らの位置付けがわかる。ほぼコストゼロで相対比較もでき、緊張感も生まれる。デジタル化の真骨頂である。また、各個人、各部門はその中で目標を設定して、参考にできる過去の進め方を真似しながらその目標を達成することすら可能だ。

 達成という高揚がもう少し上手くなりたいと、前に進む活力を生み出す。さらに、同じ境遇の人を見つけ出し、直接対話して一体感を感じることもできる。自ら望めば、デジタル空間でバーチャル体験を積み重ね、失敗の体験すら持つことができる。マネージャーは、こうしたデジタル化の持つ道具立てを活用して、現場が持つべき6つの資質を鍛え、4.0時代に活躍できる人材を生み出さなければならない。

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