1つ目は「全体を体系的に捉える」だ。自分に割り当てられた個別の作業ではなく、お客様に価値を届けるまでの全体を思い描く能力を磨くことである。デジタル空間上に整理されている見える化の体系から一連の流れを理解していく。まずはゴールであるお客様に価値を届けるまでに関わっている部門や人、機能全てを把握する。価値提供にどれだけの部門や人が関与しているかが理解できるはずだ。次に各々の貢献価値の中身を常にイメージしながら、どのようにそれを提供しているかを思い描く。さらに、それぞれの貢献価値を生み出すのに必要な時間、仕込みの時間をしっかりと認識しておくことも重要だ。
2つ目は「強い意思をもって自律的に動く」である。解くべき問題がわかっていて、その解決に向けて自律的に動いている状態だ。何をいつまでに解決すべきと、全体の中での自分の役割がしっかりと認識できていて、解決に使う打ち手を自ら描いていく。そして、重要なことは1 つの問題を解決しても、ストレッチした次の問題を自ら設定できることである。
3つ目の資質は「失敗を恐れず糧にする」だ。大事なのは、OJTでどんどん失敗することだ。真剣に失敗する。そして、それらの失敗が他の活動とどのようにつながっているかを理解する。どこにどんな遅れや迷惑をかけたかを見極める。4.0時代にはバーチャルな失敗を幾らでも積み重ねられる。特にデジタルは一回のトライに時間がかからないため、短時間で数多くのPDCAが行える。すぐに成長でき自信を持て、リアルでの成功確率を上げて現場にでることができるのだ。
4つ目は「異なる価値観を学ぶ」だ。自らの専門性を高めることも重要だが、4.0時代には専門性を超えた学び、専門の枠を越えつながる広がる学びが必要となる。デジタル大部屋、頻繁なジョブローテーションによる多数の部門での業務体験、他部門の先輩とのバディ制度などを通じて、 他部門の業務に肌感覚を持つことが求められる。特に、連携を密にすべき部門にはしっかりと協力者を作らなければならない。色々な部門にホットラインがある人、部門と部門の際がわかる人が4.0時代には実力を発揮する。
5つ目の資質は「好きなことから始めてみる」だ。失敗を恐れずにやってみることだ。 日常には解決を待っている課題がたくさんある。突き詰めることがたくさんある。どれでもいい。1 つでも課題を解決すれば達成感が生まれる。自分の技量や物差しが広がる。こうしたワクワク感を常に感じながら、誰もが前向きに日々を過ごしたいはずだ。
最後の資質は「お客様の社会・国と向き合う」だ。もちろん、直接のお客様は製品やサービスを買ってくださるお客様だ。しかし、4.0時代はつながりがどんどん広がり、企業が活動している地域社会、国とのつながりは太くなり、見える化も進む。したがって、企業はお客様から社会、国へと視野を広げて、大きな貢献を果たしていくことが求められる。すると、これまであまり注目してこなかった人間・社会の尊重、非排他性、環境意識といった価値が浮かび上がってくる。現場では得難い価値だ。(図B参照)
こうした資質を身に付けるためには、訓練も必要となる。すべての人材がその道を歩む必要があるとは思わない。例えば、ある特定の経験やノウハウを持った熟練者は知恵袋としての役割を担っても良い。プロデュースは若者に、熟練者は若者の行動力を冷静さと熟練の技能により支えるといった構図が見えてくる。4.0時代には極めて効果的に機能する役割分担だと考える。
実は、日本型4.0 を実現していく上で一番重要なのはトップの覚悟である。多くの企業ではトップの年齢は50代もしくは60代だ。スマホ、タブレットは使っているものの、デジタル化には比較的に縁遠い存在である。また、トップは、これまで事業部制、機能本部制、マトリクス組織など様々な組織形態を活用しながら、一定の役割分担とすり合わせをバランスさせ現場の効率性を生み出すという実績を積み上げてきた。
ところが、4.0 のデジタル化された時代には、階層が減り、よりフラットな組織や個人が縦横無尽につながるという状況が理想となる。これまでの成功体験とは、かなり異なる世界へと移行しなければならないのだ。これには、非連続な変化を受け入れる勇気をもつことが求められる。ただ、変化を冷静に分解してみると一つひとつの要素は、これまでにも経験のあるものばかりだ。違うのはそれぞれの要素に起こる変化のスケールやレベルが大きく、足し算した変化の総量が、連続とは思えない量に到達している点だけだ。したがって、トップは見た目の変化の大きさに一気一憂せずに、改善のスピードを極限まで高め、恐れず前に進んで欲しい。トップが果たすべき役割は8つである。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授