TPP/IoT時代を生き抜く「農業4.0」のすすめ視点(1/3 ページ)

TPPが大筋合意された状況を受けて、産業界で急速に普及・進展しつつあるIoTを活用し、脅威をチャンスに捉える日本農業の第四次構造改革の在り方を考察していく。

» 2016年02月25日 08時00分 公開
Roland Berger

1、21世紀は農業の時代

 20世紀は石油を巡る争いが起き、21世紀は水を巡る争いが発生するだろうと、識者がよく指摘している。本質的には「食糧」が21世紀の最大の関心事であると筆者は考える。

 現状、世界人口は70億人を超え、2025年には80億人を突破、2065年には100億人を突破すると予想されている。現状でも、約10億人が飢餓に苦しんでおり、約7億人が水不足に苦しんでいると言われているが、世界人口のさらなる増加により、食糧不足・水不足の問題はより深刻化していくことは必至だ。

 地球上に存在する水のうち、淡水は僅か2.5%に過ぎないが、その約7割が農業用水として利用されている。また、世界の陸地面積に占める農地の割合は、2000年の11.7%から、2012年の12.0%へと緩やかに増えているものの、都市化の進展を考えれば当然頭打ちになる。

 即ち、限られた水資源と農地を前提に、増え続ける世界人口に対応した食糧供給を如何に行っていくかが、人類が今世紀に直面する最重要課題の1つであり、農業セクターに求められる期待・使命は極めて重い。現下の環境では、日本においても、減反政策・戸別所得保証制度など「内向き」且つ「守り」の農業政策ではなく、「攻め」の農業への転換をいち早く断行していくことが、益々求められている。

 本稿では、TPPが大筋合意された状況を受けて、産業界で急速に普及・進展しつつあるIoTを活用し、脅威をチャンスに捉える日本農業の第四次構造改革の在り方を考察していく。

2、TPPは脅威か、チャンスか

 2015年10月、日本が正式にTPP交渉参加してから2年の時間を経て、ようやく大筋合意にたどり着いた。総論としては、関税撤廃・縮小に伴い、国内農業は安い海外農産物の攻勢を受けて、環境はこれまで以上に悪化していく。所謂重要5品目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖原料) のうち関税撤廃したことの無い関税品目586(ライン数) の約70%は関税撤廃こそ免れたものの、関税引き下げ、輸入枠の新設等により、従来よりは厳しい競争環境に晒されることになる。

 迎え撃つ日本農業をみると、農業就業人口の減少(1985年から半減し、2013年度は239万人)、担い手の高齢化(平均年齢66.2歳) 等により、かなり弱体化していると言わざるを得ない。日本農業の労働生産性は低く、農業従事者一人あたりの農業GDPで比較すると米国・豪州の5分の1程度に留まっている。ただ、意外なことに、農地面積あたりの農業GDPで比較すると、日本は、米国・豪州に比べて、10倍以上の付加価値を稼ぎ出している。

 勿論、主要作物や農業政策の違いがあるので短絡的な評価は危険ながらも、総論として、日本農業が進むべき道は、従来どおり高付加価値作物づくりを維持しながら、省人化を如何に進めていくかに尽きると言えるのでは無いだろうか。

 労働生産性を向上しづらい中山間地域が、わが国耕作地の約4割を占めていることは確かに障害になる。これら地域では、機械化農業に不向きで、人の手をかけることで商品価値を高めやすい一部の果実・野菜等で勝負をせざるを得ないだろう。他方、残りの6割の耕作地では、少なくとも海外生産物に負けない農業経営を志向すべきである。

 日本の農業は、政府・農協の手厚い保護の下、非効率でも生き残れる構図が温存されてきた。悪しき護送船団方式が、やる気ある、経営力優れた農家の更なる成長を阻害してきた。加えて、資本力・人材力の優れた大手企業の農業分野参入も、段階的に開放されつつあるも、まだまだその能力を完全に発揮できる制度にはなっていない。

 TPPは、確かに日本農業にとって短期的にはマイナス効果を生むだろう。特に、零細農家にとっては、その影響は顕著である。かつての流通革命を思い起こしてほしい。ダイエーに代表される大型小売がチェーンオペレーションを確立し、大量仕入・大量販売・大量出店によって、市街地の商店街・商店主に多大なダメージを与えた。だが、独自色を打ち出した小売・飲食店舗は小規模でも生き残り、大規模小売の出店は地域に雇用を生み出し、消費者にとっては選択肢の幅が拡がり生活が豊かになった。必ずしも負の側面だけではなかったはずだ。

 今まさに農業で同じようなことが起こりつつある。過渡期に政府が補助政策を出すことは決して否定はしないし、寧ろ行うべきと考えるが、TPP加盟を千載一遇のチャンスと捉えて、強い農業を創り出す契機と捉えるべきである。

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