デジタルによる「対話」の革新視点(1/4 ページ)

デジタルの進化は人間のコミュニケーションのあり方を変えた。これまでの購買情報を基盤としたユーザー接点は飛躍的に拡大。IoT等により、常にユーザーに寄り添う企業の存在を可能にした。

» 2016年08月25日 07時22分 公開
[長島 聡ITmedia]
Roland Berger

 デジタルの進化は人間のコミュニケーションのあり方を変えた。

 その進化した対話により、これまでの購買情報を基盤としたユーザー接点は飛躍的に拡大。IoT等により、常にユーザーに寄り添う企業の存在を可能にした。

 そして、旧態然としたロイヤルカスタマーという概念は崩れ去り、新しい関係性が生み出される。その関係性においては「付加価値を提供してくれる」という信頼感が礎となり、ユーザーからの能動的な企業への情報提供が行われる。

 また、企業という器はユーザーから見透かされ、構成員たる従業員の姿が垣間見えるようになり、個々の従業員の姿がその関係性を形作る。そのような中で対ユーザーだけではなく、従業員とは会社にとってどのような存在なのかという問いに答えることなくして、従業員という「人」の最大活用、それに伴うユーザーとの関係性構築、ひいては圧倒的な競争力の獲得は困難になってくる。

 特にB2C領域において、ロイヤルカスタマーという資産はブランド価値の基盤として最重要と見なされてきた。しかしこのロイヤルカスタマーが本当の意味で当該企業と「同じ船」に乗っていることは思いのほか少ない。

 そもそもloyaltyの語源は何か。それは君主と家臣の関係に近い。意味する所は要するに忠誠心だ。ただ、多くの消費者の購買は分かる範囲での手に入る空間的・時間的制約のもとに下された判断であり、近くにあったからという間に合わせの選択だ。それはloyaltyに見えたかもしれないが、選ぶ手間・手に入る手間が面倒なために妥協していつもと同じものを手に入れていただけに過ぎない。

 しかし今や、莫大な情報の中から、一瞬でベストな商品を最安値で見つけることができ、身近にないものもクリック一つで購入することができる。こうしてかつて「ロイヤルカスタマー」と思っていた人々があっという間に、当事者の自覚が無いままに(なぜなら元々、当人は当該製品への忠誠心など意識したことはなく、ただただ近くにあったので買い続けていただけだったから) 別の所へ行ってしまう。彼らは自由な「賢い消費者」であって、忠誠心を第一義に考える“ロイヤル” なカスタマーでは当然無い。

 もちろん元来の意味は違う。しかし実際の運用上、企業側のロイヤルカスタマー戦略は不十分な情報しか手に入らず、購買単価と回数を代替指標として捉えている。そのため、結果的には上記で捉えている姿とイコールになってしまう。

 ではこれまでと同じように打つ手は無いのか?

 デジタルの進化がそこに新たな機会を提供し出した。このことに欧米系のグローバルトッププレイヤーは気づき、日本企業は総じて遅れを取っている。具体的に可能になったことは二つ存在する。一つは「製品」や「店舗」といった限定されたコンタクトポイントから、無限に存在する全ての時間が(スマートフォンやIoTの進化などにより) コンタクトポイントとして成立するようになったということ。点から面への移行。

 二つ目は相手が求める有益な情報を識別して提供するOne to One Marketingが進化し、受益者が能動的・意図的かつダイレクトに(有益であるならば)情報を受け取りたいと考えるようになったということ。 

 それらにより受益者側との「対話」そのものが価値となり、「製品」や「店舗」はその対話の道具となる。

 価値提供のあり方をどこまで新しい視点へダイナミックに移行できるか、それ次第でかつて想像だにしなかったレベルでステークホルダーとの「対話」が可能になってきている。

 例えばAmazonは2014年に米国でAmazon EchoというAI搭載型スピーカーを発売し大ヒットしている。ユーザーは家に小さな筒状のEchoを置いておき、内蔵AIが応答、かなり曖昧な指示も口頭で実行してくれる(家電製品のコントロールからタクシー配車、銀行残高確認など)。

 この商品が市場に出てきたことの意味は何か?この延長線上には家の中という企業からは完全にブラックボックスとなってきたユーザーシーンの情報が蓄積されていく世界があるかもしれない。ユーザーが最適なレコメンデーションや行動予測(先読み)を実現してもらうために能動的に情報を提供し、解析を依頼。そのインサイトはマクロデータとして企業の中核資産となりあらゆる製品開発・サービス開発に適応されていく。

 では具体的にはどのような対応が企業に求められているのか。

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