Logistics 4.0時代の物流ビジネス視点(2/4 ページ)

» 2017年02月28日 07時28分 公開
[小野塚征志ITmedia]
Roland Berger

2、物流ビジネスにおける競争環境の革新的転換

 物流ビジネスの装置産業化は、競争環境の革新的転換をもたらす。大規模な投資を必要とするがゆえに、スケールメリットの獲得が競争の基軸となる。水平展開で規模を追求するのであれば、「特定の利用運送サービスでデファクトとなる」ことが求められる。対して、垂直展開を軸とするのであれば、「特定業界のサプライチェーン全体をカバーする」ような戦い方が想定される。

 「運ぶ」、「保管する」、「梱包する」、「手配する」といった基本オペレーションの外の領域で、「物流+αの価値を提供する」ことができれば、物流会社として事業領域を拡大することができる。

 他方、物流会社以外が「物流アセットを提供する」ことを切り口に事業領域の拡大を図ることも想定される。(図A参照)

Logistics4.0時代の勝ちパターン

2-1特定の利用運送サービスでデファクトとなる

 かつて、日本には、「帰り荷を確保したい運送会社」と「安く荷物を運びたい荷主」をマッチングする、水屋と呼ばれる仲介業者が数千も存在していた。現在では、運送会社と荷主の情報を広く収集し、取扱情報量の飛躍的拡大に成功した求貨求車システムが寡占的地位を得ている。トラックや荷物の手配機能が装置産業化しつつあるといえる。

 求貨求車システムは基本的に中長距離のトラック輸送をターゲットとしているが、都市圏内の短距離輸送においても同様の動きが進みつつある。印刷業界でマッチングビジネスを展開するラクスルが2015年から運用を開始している“ハコベル” は、その代表的事例といえる。“ハコベル” は、既存の求貨求車システムと違って、運送会社と荷主をオンラインでマッチングする。荷主は、集荷場所や時間といった依頼事項を入力するだけでよい。料金は定価制なので、バイク便のような感覚で簡易に利用できる。一方、運送会社は専用アプリにアクセスし、受注したいと思う仕事があれば当該ボタンをクリックすればよい。受注額も定価制である。“人” による料金交渉を必要としない、“物流版Uber” ともいうべき次世代のマッチングシステムといえる。

 フォワーディングの世界でも同様の変化が生じつつある。Flexportは、2013年に創業した米国のフォワーダーだが、運送事業者や通関事業者の受託条件を全てインデックス化し、検索可能なデータベースとして提供している。荷主は、同データベースを利用すれば、輸送ルート/手段や料金などを条件に、最適な事業者を抽出できる。フォワーディングにおけるマッチングのシステム化を成し遂げつつあるといえよう。世界にはフォワーダーが万単位で存在する。Flexportのようなマッチングシステムが普及すれば、水屋と同じく、大多数のフォワーダーは生き残ることが難しくなるはずだ。

 マッチングシステムは、「運ぶ」プロセスに限定されるものではない。倉庫のスペースをマッチングする「求貨求庫システム」が開発・普及すれば、仲介事業者の競争環境は一変するだろう。

 即ち、利用運送サービスはLogistics 4.0により確実に寡占化する。この領域において勝ち残りを目指すのであれば、脱労働集約型のマッチングシステムを構築するとともに、広く多くの荷主/荷物を集めることによって、デファクトとなるようなプレゼンスをいち早く確立することが重要といえよう。

2-2、特定業界のサプライチェーン全体をカバーする

 近年、国内の物流費全体に占める自家物流の割合は一貫して縮小している。物流機能を社内に保持するのではなく、外部委託に切り替えることを選択した荷主が着実に増加しているからである。

 例えば、所謂「大手電機メーカー8社」の中で、シャープ以外の7社は元々物流子会社を有していたが、日立製作所、ソニー、パナソニック、富士通、日本電気の5社は既に保有株式を売却した。従来の物流子会社体制を今でも維持している会社は、東芝と三菱電機の2社のみという状況である。

 他方、三井倉庫ホールディングスは、旧三洋電機とソニーの物流子会社を買収することで、家電業界のサプライチェーン全体をカバーできるだけのプレゼンスを得つつある。家電メーカーの物流を広く獲得するだけではなく、旧三洋電機の物流子会社が家電量販店の物流業務を受託していたこともあり、生産から小売までの一貫物流を構築することに成功した。結果として、一部の地域では、メーカーと量販店の在庫を同じ場所に置くことで両社間の横持ちを解消するなど、一貫物流ならではの効率化を実現するに至っている。

 Logistics 4.0は、物流機能の外部化を進展させる。「省人化」を実現するために必要な大規模な設備投資を負担できるだけの荷主は多くない。「標準化」が進むことを考えれば、外部の物流リソースを共用することのメリットは益々大きくなる。物流の非競争領域化が進むともいえよう。

 そもそも同じ業界であれば、同じようなものを同じような場所で生産し、同じような輸送ルート/手段で運ばれ、同じような流通経路をたどって販売される。業界単位で物流機能を特定の事業者に集約し、以て効率性を追求する素地は元からあったといえる。Logistics 4.0は、その素地を開花する契機となろう。

 特定業界のサプライチェーン全体を広くカバーする戦い方を展開するのであれば、多くの荷主を囲い込むことが前提となる。三井倉庫ホールディングスのようにM&Aでベースカーゴを獲得することも有力な手段となろう。加えて、より重要なことは、荷主個社のニーズに対応するのではなく、業界全体の最適解となる物流プラットフォームを提供することである。業界全体の最適化に資することこそ、生産から小売までを広くカバーすることの価値といえよう。

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