「クリエイティビティなんて、天から選ばれた一握りの人たちのものでしょ」と思いがちだが、実際には全ての人が「クリエイティブになれる素質」を持っている。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
型通りの決まり切った仕事はこれからAIやロボットに奪われる、といった趣旨の記事が世にあふれている。どうやら、「真面目に言われたことをきっちりと実行する」のはAIやロボットの方が得意らしい。
そんな中、「これから身に着けるべき能力とは何なのだろう?」「人間にしかできないことは何なのだろう?」と問いたくなる人は多いと思う。
「決めること」はその一つだろう。じゃあ、意思決定力を磨こうか。「リーダーシップ」も人間にしかできないことだ。じゃあコミュニケーション能力を向上させようか。
もちろんこれらは重要であるが、以下のように考える人も多いだろう。人間にしかできないことは「クリエイティビティ」だ。ぜひクリエイティブになりたい!、と。
そこで、本稿では2つの問いについて考えてみたい。
問い1:クリエイティブである、とはどういうことか?
問い2:クリエイティブになるにはどうすればいいのか?
筆者は、大阪大学などで「Foresight School」という「新たな価値を生む学校」を主宰している。
新しい価値を生む(=イノベーション)方法論「Foresight Creation」をまとめ、それを学生に教えることで、学生自身が具体的な成果を生み出している(例:彼らの案が製品として発売された、コンペで優勝した、など)。
このForesight Creationという方法論は、クリエイティブ・シンキングやKJ法、行動観察、U理論、デザイン思考などを統合することで、価値創造の「プロセス」と「8つの理論(8つの玉)」としてまとめたものである。
このForesight Schoolは社会人にも展開しているが、この「人をクリエイティブにする」方法論をまとめ、それを実際に教えることで得た学びを読者の皆さんと共有したい。
クリエイティビティや創造力という言葉を、私たちは日常的に使っている。しかし、「その定義は?」と聞かれて明確に答えられる人はどれぐらいいるだろうか?
「クリエイティビティの定義」を聞かれても困ってしまうのは当然である。というのも、アカデミックの世界においても、明確な定義は存在しないのである。はからずも、このことは「クリエイティビティは人間にしかできない」ことの証左になっている。つまり、クリエイティビティは「誰の目にも明らかなように手順化できない」ということなのだ。手順化できるのであれば、AIやロボットにもできてしまう。
ただ、「クリエイティビティを定義しようと試みた人」は多い。認知科学が専門のマーガレット・ボーデンもその一人で、クリエイティビティを分類したが、その内の2つを簡単に解説したい。
これは、Foresight Creationにおける8つの玉の一つ、リフレームと同じ概念である。リフレームとは、「ビジネスにおいてそれまで常識とされていた解釈やソリューションの枠組み(フレーム)を、新しい視点や発想で前向きに作り直すこと」である。つまりリフレームとは、シャーロック・ホームズのように「意外な真相」を出すことであり、これまでの常識と異なる新たな仮説を生み出すことである。
例えば、「天動説(地球を中心に世界が動いている)」から「地動説(地球は太陽のまわりを廻っている)」に物事のとらえかたが変わるのは、リフレームの分かりやすい例である。また、「グラフィックのリアルなゲーム機」から「家族みんなが仲良く遊べるゲーム機」のように、新価値創造においてもこのリフレームは欠かせない。
こちらは、Foresight Creationにおける統合の玉と同じ考え方である。例えば、ルネサンスの3大発明の一つである「活版印刷技術」は、印刷とは直接何の関係もない「ワイン造り」の技術を応用することで生まれている。
経済学者であるシュンペーターのイノベーションの定義は、この統合にある。すなわち、「これまで組み合わさってこなかったものが新しく結合」されたものがイノベーションなのである。
というわけで、「クリエイティブであるとはどういうことか?」という問いには、「リフレームできること/統合できること」だと答えることができる。しかし、リフレームする、統合するは、「言うはやすし行うは難し」である。
2つ目の問いについては、「リフレームや統合ができるようになるためには、どういうテクニックを用いればいいのか?」とスキル的なことを思い浮かべる人が多いと思う。実は、その考え方からリフレームする必要があるのだ。
私は、これまでのForesight Schoolでの実践から、「クリエイティブになるため」には2つのことが必要だと考えている。
1つ目は、「ボケられる場」である。
リフレームする、というのは「ボケる」のと同じである。つまり、「真面目に無難で正しいことを言う」のとは対極にある「常識とは違う発想をする」ことがリフレームである。常識と違う発想を披露すると、通常は「バカなことを言うな」などとすぐにツッコまれてしまう。あまりにもツッコミがまん延すると、その内にボケる人はいなくなってしまう。まず何よりも重要なのは、「安心してボケられる場」なのである。
2つ目は「同じ意志を持つ仲間」である。
一人ぼっちでは、クリエイティブであろうとしてもすぐに限界が来る。「こういう世の中にしたい」という同じ意志を持つ仲間が必要である。ビートルズのジョンとポールのように。
仲間は、一緒に行動するのでさまざまな文脈も共有している。いわば、全て言葉をつくさなくても分かりあえる関係になっている。仲間同士であれば安心して意見をぶつけあうこともできるし、つらいこともみんなで笑いながら乗り越えていくことができる。それはまるで桃太郎と犬、猿。キジのようなもので、それぞれ別の能力を持つ仲間がいるから、鬼が島に挑むことができるのである。
ここまで読まれて、「えっ? 場と仲間が必要? 個人の資質は?」と思われた方もいると思う。
「クリエイティブかどうかはセンスで決まる」と言う人は多い。実際に、教育心理学のキーガン教授から「リフレームできる自己変容型の人は世の中に1%もいない。ほとんどの人々は周囲の人を気にする環境順応型か、自分には明確な判断基準があると考える自己主導型のどちらかである」と言われてしまうと、「クリエイティビティなんて、天から選ばれた一握りの人たちのものでしょ」と思いがちである。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授