次に同氏が打ち出したのが、「ITベンダーとのオフサイトミーティング」を定期的に開催するという取り組みだった。ミーティングといっても、格式ばったものではなく、気持ちが熱くなった状態で感じたことを肴に、酒を酌み交わす形にしたという。「自分たちのオフィスから離れて外に出て、さまざまなITサービス企業の『とがったテクノロジー』や『面白そうな人』と毎月ふれあう場をつくることを目指しました」(野村氏)
こうしたミーティングを企画した理由について、野村氏は次のように説明する。
「それまでのシステム開発は、業務要件は社内でまとめるものの、それ以降の開発はシステム子会社に丸投げするのがほとんだだったので、最新技術に関する知見が社内に蓄積されなかったのです。
また普段、コミュケーションを図るベンダーの顔ぶれもほぼ決まっていましたから、“技術に対する新たな視点”を取り入れる機会が少なかったのです。こうした“内にこもった状況”を打破するためにも、これまで付き合いのなかった『変わった人たち』の話を聞くことで、最新の技術情報をキャッチアップするとともに、外部からの刺激を受けてもらいたいと考えたのです」(野村氏)
さらには、「D-techチーム」と呼ばれる新たなチームも立ち上げた。これは、同氏が兼務していたデジタルデザインラボの機能の一部を移管したもので、多くのメンバーがグループIT企業からの兼務出向者によって占められていた。
「従来は業務部門から寄せられたニーズを基点にシステム開発を行っていましたが、D-techチームはそうではなく、テクノロジーのシーズ(企業が新たな事業を創出する上で必要な技術、人材)を基点にシステムを企画し、開発することをミッションとしています。このような組織を作り、外から新しい風を呼び込むことで、それまでのIT部門にはなかった『テクノロジードリブンの発想』を根付かせようとしたのです」(野村氏)
既存のチームに新たなマインドセットを持ち込み、新チームを設けてテクノロジードリブンの考え方を取り入れ、さらにはさまざまなベンダーの人と交わって刺激を与える――。こうしてさまざまな角度からイノベーションの種を蒔いていったところ、数カ月ほどたった頃から徐々にチーム内に変化が見られるようになったという。
長らく「決められた計画を粛々とこなすこと」をよしとしていた組織風土が変わり始め、「新しいことにチャレンジしてみたい!」というムードが高まってきたのだ。
その機を逃さず、野村氏はイノベーション推進部主導で、テクノロジーを基点に具体的な業務課題を解決するための評価プロジェクト(PoC)を立ち上げた。業務部門の協力を得ながら幾つかのPoCを進めるうちに、かつては見られなかったような変化がチームに生まれたという。
「IT部門の仕事は『うまくいって当たり前、何か問題が起こると怒られる』のが一般的なのですが、IT部門が自らテクノロジードリブンで考え、業務現場が思いもよらなかったような方法で課題を解決してあげると、『ありがとう』と言ってもらえるようになったのです。IT部門はそれまで、このような言葉をかけてもらったことがなかったので、私たちにとってとても大きな励みになりました」
【後編に続く】
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明治学院大学 経済学部准教授