「顧客の受容性、経済合理性」「自社の収益性」「時系列の戦略ストーリーとの整合」といった観点から、新規事業のプライシングにおいて考慮すべきポイントとは?
よく知られた話であるが、プライシング次第で事業の売上や利益は大きく変わってくる。それは新規事業においても同様だが、特に自社のみならず世の中にとっても新しい製品やサービスが対象となる場合、何を基準に「妥当な」価格設定を行えばよいだろうか?
本稿では、「顧客の受容性、経済合理性」「自社の収益性」「時系列の戦略ストーリーとの整合」といった観点から、新規事業のプライシングにおいて考慮すべきポイントを論じる
プライシングの大前提として、顧客がどの程度支払う意欲があるか、すなわち顧客の受容性を把握する必要がある。世の中に類似の製品やサービスがない事業の場合、顧客自身が類似ソリューションと直接比較することは難しい。
代わりに、当該製品やサービスによって顧客にもたらされる経済的メリットを想定し、それよりもリーズナブルな価格設定を行うことで、顧客にとっての経済合理性を担保する、という考え方が1つある。
例えば、顧客の作業負荷を軽減する/オペレーション改善につながるようなソリューションであれば、「当該ソリューションにより顧客の工数がどの程度削減できるか」「金額換算すると、顧客は工数あたりどの程度のコストをかけているか」をひもとけばよい。
また、BtoBを中心として顧客の売上拡大に資するようなソリューションの場合は、どの程度の売上拡大が見込めるかを見積もり、顧客が損しないような価格設定とすべきである。
あるいは、新規事業として成立する、すなわちアーリーアダプターとなる顧客が切実なニーズを抱えるソリューションであれば、顧客は足元で何等か代替策を講じているはずである。「その代替策に顧客はどの程度お金をかけているか」「提案したいソリューションは代替策に比べて何が優れているか」「顧客はその付加価値に対し、どの程度上乗せして支払ってくれそうか」という観点もヒントになるであろう。
上記のような考え方で初期的に価格設定をした上で、次節で述べる自社にとっての収益性が担保されるか確かめ、その結果として導出した価格案について、実証実験(PoC)を通じて実際の顧客の受容度を検証していくとよいだろう。
前述の通り顧客の受容性を踏まえるのは大前提であるが、事業である以上、当然ながら自社にとっての収益性を担保しなければならない。そのために、製造コストや流通パートナーとの利益配分なども踏まえて損益シミュレーションを行い、顧客目線で設定した価格で自社として収益性が担保されるかを検証する。
一口に価格といっても、顧客から製品、サービス納入時に一括して代金を徴収する「売り切りモデル」「サブスクリプション(定額課金)モデル」、顧客の使用量に応じた「従量課金モデル」、あるいはその折衷案など、さまざまな課金モデルが想定しうる。
課金モデルについても、顧客の受容性と自社の収益性とのバランスから選択すべきだが、後者に関しては、課金モデルの設定次第で投資回収期間も大きく変わりうるため、時間軸も踏まえた検討が必要だ。
ここで一点留意したいのが、プライシングにおいて「顧客を甘やかしすぎない」という点である。顧客の受容性だけを念頭に課金モデルを設定してしまうと、例えば極論すると「導入ハードルが低い定額/従量課金モデルで、かつ顧客はいつでも解約可能」といった、顧客の継続利用意向、使用量次第で大きく収益性が毀損されうるモデルとなってしまう。
Copyright (c) Roland Berger. All rights reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授