新規事業におけるプライシングの考え方視点(2/2 ページ)

» 2019年12月04日 07時01分 公開
[染谷将人ITmedia]
Roland Berger
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 もちろん、そもそも顧客に受け入れられなければ事業として成り立たないが、損益シミュレーションを踏まえて最低契約期間や月当たりの最低使用量を設定するなど、顧客の離反や使用量の伸び悩みリスクにも耐えうる課金モデルとすべきだ。

3、時系列の戦略ストーリーに沿って考える

 新規事業仮説はスナップショットではなく、時系列の戦略ストーリーとして語る必要がある(「視点:市場で勝ち続ける新規事業を創るには〜事業仮説構築のポイント」を参照)。プライシングについても同様であり、市場投入時の価格や課金モデルも、想定競合への対策を踏まえた時系列の戦略ストーリーと整合を担保しなければならない。

 例えば、「参入のスピード感を重視して簡易的なソリューション(Ver.1)をまず市場投入し、その後、独自技術を活用して差別化したVer.2を投入することで、参入障壁を築く」といったケースを想定してみる。

 時系列での戦略ストーリーを意識しない場合、

  • Ver.1の段階から大きな収益を上げようとして顧客の受容度が十分でない割高な価格設定となり、結果、もくろんだスピード感で市場開拓が進まない
  • 逆に、Ver.2の開発にかかわる投資とそれを踏まえたプライシングがVer.1投入時点で念頭になく、Ver.1を安価に設定しすぎてしまい、結果Ver.2がVer.1に比べ過度に割高と捉えられてしまうことで普及しない(結果、目標とする事業規模、投資回収期間が達成できない)

といったわなに陥りがちである。

 そうではなく、「想定競合を念頭に、事業を時系列でどう発展させるのか」「そのために、市場投入後にどのような投資がいつ必要か」「目標とする事業規模、投資回収期間はどの程度か」「事業の時系列の発展の中で、どの段階から投資回収に入るのか」を念頭に置きながら、各段階でのプライシングを単発ではなく、市場投入前から時系列で検討しておくのが望ましい。

 もちろん、PoCに移る前の仮説構築で時間を浪費すべきでないが、検証に値する事業仮説とするためにも、仮説構築段階からプライシングも含めて時系列で捉えておくのがポイントである。

4、おわりに

 冒頭で述べた通り、プライシングは売上や利益に大きく影響し、設定いかんで新規事業としてそもそも成立するか、自社が市場で勝ち残れるかを左右する。本稿がその検討に際して一助となれば幸いである。

著者プロフィール

染谷将人(Masato Someya)

東京大学理学部物理学科、同大学院理学系研究科物理学専攻修了。

消費財・小売り、化学・素材分野や、イノベーション・新規事業・M&Aにかかわる戦略案件を中心として、グローバル・プロジェクトを数多くリード。クライアントワークの他に、ローランド・ベルガー東京オフィスの新卒及び中途採用担当マネージャーも務める。


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