経済成長や安い労働力を背景とした従来型新興国ビジネスから、未来構想型の新興国ビジネスへシフトしていくべきである。
東南アジアでは革新的な技術やビジネスモデルの導入が急速に進み、破壊的な産業革新や新たな形での産業創造が次々と起きている。人口増加に伴う経済発展を前提に、いかに市場規模、シェアを高めていくか、もしくは、安い労働力を背景にいかに安く大量生産を行うか、という従来の新興国ビジネスの概念を大きく転換すべきステージに来ている。この変化の中で存在感を発揮している企業は、欧米や中国のメガ企業に加え、ローカルのスタートアップや大手財閥である。彼らに共通しているのは、いわゆる従来型の新興国事業のやり方ではなく、スピーディーかつ大胆に動き、さまざまな仕掛けを能動的に進めていることである。
新しい事業に対し、大規模な先行投資を行い、先行者利益を狙う。最初からベストは目指さず、あらゆる取り組みのトライ&エラーを繰り返し、段階的にベストな事業モデルを構築する。また必要であれば他社との大胆なアライアンスも進める。政府や業界のキープレイヤーを巻き込み、業界を自分たちが目指す方向に引き寄せていく。こういった変化・動きの中で、残念ながら日本企業の存在感は薄い。日本企業も、東南アジアで実現したい世界(=未来構想)を大胆に描き、攻めていくときではないだろうか。経験主義や自前主義を脱却した、意識改革と行動が求められている。経済成長や安い労働力を背景とした従来型新興国ビジネスから、未来構想型の新興国ビジネスへシフトしていくべきである。
かつて、日本企業にとって東南アジア攻略における命題は、(1)人口増加に伴う経済発展を前提に、いかに市場規模、シェアを高めていくか。もしくは、(2)安い労働力を背景にいかに安く大量生産を行うか、の2つであった。
しかし、わずか数年の間に、東南アジアは日本企業の予想を覆す変化を遂げた。ここでの問いは、「変化が激しい東南アジアにて、他のプレイヤーも巻き込み、どう産業の変革、構造改革を実現し、経済発展に貢献していくか」という、よりダイナミックな方向にシフトした。東南アジアは人種も宗教も多様であるが、産業の変革を促進するエコシステムが全体として機能していることが、圧倒的な変化スピードの背景にある。(図A)
B2C(消費者向け)の世界においては、シェアリングエコノミー、モバイル決済や送金、ECなどが、ここ数年で消費者の「生活インフラ」として定着した。例えば、ライドシェアの普及で各都市での移動が日本よりも格段に便利になったことは、3年前には考えられなかった変化である。筆者が東南アジアに駐在したこの3年でも人々の生活へのデジタルの入り込み方の進化は想像以上であり、もはや日本のはるか先を行っている。
B2B(企業間取引)やものづくりの世界においても、さまざまな取り組みが進んでいる。各国政府は、インダストリー4.0/IoTによる産業変革を政策として後押ししており、それは、東南アジアが抱える課題をいかに先端技術で解決するかという観点に基づいている。その枠組みの中で、民間では特に欧米企業、地場企業が中心となり、デジタル技術の展開を進めている。同地域は先進国と異なり、いわゆるレガシーが少ないため、新しい技術やシステムの導入がいち早く進みやすい。
例えば、シーメンスやエアバスなどの欧米勢は、東南アジアを注力市場の一つとし、シンガポールに最先端の研究ハブを設置し、周辺国への先端技術の導入を狙っている。
また、ナイキやユニリーバなどの消費財メーカーは、デジタル武装された最先端の工場を東南アジアに導入し、高効率なサプライチェーンやマスカスタマイズへの対応を進めている。
これらの変化には、域内外の大企業のみならず、急速に勃興してきた成長力のあるスタートアップも寄与している。
例えば、当地を代表するユニコーン企業であるシンガポールのGrab、インドネシアのGO-JEKは、クルマ、バイクのシェアリングサービスを提供している。
彼らの事業が成長する過程で産業構造は大きく変わった。移動の質は格段に向上し、消費者はより便利になり、失業者はドライバーという新しい職を得て、大企業が製造するクルマやバイクが売れ、関連ローンやメンテナンス産業が拡大し、モバイル決済が普及し人、物、金がよりスムーズに移動、流通し、税収が増えた。ミャンマーでは政府と組み、都市交通インフラの整備にライドシェアを活用することを進めている。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授