また、日本でできていないことをアジア発でいち早く試し、それを日本に逆輸入することで、日本における先進領域での事業機会も拡大することが可能になる。そのためには、日本企業も新興国ビジネスの考え方や行動様式を大きく変えていく必要がある。(図D)
経済成長や安い労働力を背景とした従来型の新興国ビジネスから、未来構想型の新興国ビジネスへシフトしていく。先進国をモデルにした事業展開ではなく、その国、産業に合ったまったく新しい未来を描くことからスタートする。その際に、できるだけ多くのステークホルダーが「うれしい」と思う未来を描けるかが、未来構想実現への近道である。その未来構想に向かって必要な機能、事業を、スピード感を持って一気に立ち上げる。ある程度のサイズ感のある取り組みを進める。ただし、単に資金を大量投入して市場を取りに行けばいいのではなく、いかに短期間で目指すべき姿に近づけるかに知恵を使う。それらを実現するために、自前主義からは脱却する。未来構想に共感する力のある仲間をいかにつくるか。特に政府を巻き込んだ取り組みは、未来構想実現の確度を上げる。
例えば、東南アジアで日本企業のシェアが圧倒的に高い自動車業界を事例にとれば、ぜひ日本の自動車メーカーや関連企業が、東南アジアにおける将来のあるべきモビリティ環境を描いてほしい。政府にとっても人々にとっても自動車メーカーにとってもライドシェアプレイヤーにとっても鉄道やバスといった他の交通プレイヤーにとってもメリットがある新しい次世代モビリティの世界。基本的に新興国の都市交通インフラは脆弱であり、品質も悪く、渋滞も激しい。加えて郊外部では移動手段が極めて限られる。ライドシェアプレイヤーが出てきて格段に便利になったが、さらにその先を描く必要がある。
人々(もしくはモノ)の「移動」という観点で見たとき、それぞれの都市がそれぞれの課題を抱え、阻害しているボトルネックが多数存在している。それらを効率的かつ安価で短期間に取り除く新たなモビリティサービスを創り、人々やモノの「移動量」を増やすことができれば、間違いなくその都市・国の経済は活性化する。移動量を短期間で増やすモビリティの世界の実現は、経済成長を早めるだろう。そういったことを真剣に考え仕掛けていく企業が出てきてほしい。
半年後、1年後の東南アジアは、また大きく変わっているだろう。未来構想を描き、一刻も早くこの市場にコミットしていくことが、日本企業が今後、東南アジアで主導権を握ることができるかどうかのカギになる。ぜひ日本企業の技術力・構想力を結集し、新興国のDisruptiveな産業発展に貢献してほしい。
山邉圭介(Keisuke Yamabe)
ローランド・ベルガー シニアパートナー アジアジャパンデスク統括
一橋大学商学部卒業後、国内系コンサルティング・ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。自動車、部品、建設・住宅、航空、消費財、など幅広い業界において、営業・マーケティング戦略、ブランド戦略、グローバル戦略、イノベーション戦略の立案・実行支援に豊富な経験を持つ。近年は、新興国戦略の分野で数多くのプロジェクトを手掛ける。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授