「モノづくり力だけでは勝てない」「手元資金はあるが有望な投資領域が見いだせない」、多くの産業財メーカーが抱える共通の悩みではないだろうか。その解決策は?
「モノづくり力だけでは勝てない」「手元資金はあるが有望な投資領域が見いだせない」、多くの産業財メーカーが抱える共通の悩みではないだろうか。
昨今、どの産業でも、製品・サービス単体での競争優位性維持が困難になっており、モノとコトを組みあわせた複合的かつ抜本的なイノベーションが求められている。そのようなイノベーションを構想・具現化する上で、世界的なカネ余りとIoT技術の発展をチャンスと捉えることが重要だ。
産業財メーカーがコト売りを実現するうえで、IoT技術がもたらすさまざまな見える化は、金融サービスを起点とした多元的な可能性を生み出す。実際にモノをつくっているからこそ、機械の状況把握、時価・減価の推定、サプライチェーン全体へのフィードバックなど、産業財メーカーならではの金融サービスを開発しうる。金融サービス提供の原資を確保する上で、世界的なカネ余りが追い風となり、自らの余剰資金を使うも、金融プレイヤーを味方につけるも、その選択肢が広がっている。
使用価値をベースとした成果課金モデルや、減価・時価把握に基づく次世代型リース、稼働可視化による運転資金供与など、金融サービスを軸に新たなマネタイズ手段を実現できる環境は十分に整っている。あとは、モノづくり力で勝負してきた成功体験から脱却して、未来志向のパラダイムシフトを、いかに迅速かつ的確に行えるかだけだ。
世界的なカネ余りに歯止めがかからない。リーマンショックを契機とした世界的な金融緩和政策を受けて、民間セクターの資金が膨らみ続けている。日本経済新聞の集計によると、世界の上場企業が保有する手元資金は12兆ドルと、10年前から80%増加し、半数以上の企業が実質無借金経営となっているという。
我が国の企業も全く同様だ。本来、さらなる成長の種まきをすべき時だが、さしたる有望投資対象が見当たらない企業があまりにもに多い。2016年度の国内リース取扱高(5兆円強)は、10年前の2006年度(約8兆円)に比べ3〜4割も減少している。デジタル技術対応に後れを取らぬようCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の創設といった新たな動きも散見されるが、おおむねの余剰資金は、有利子負債の圧縮や自社株買いに回り、金融市場へ還流してしまう。
他方、アセットファイナンス市場の成長に注目したい。商品・在庫など動産や売掛債権を担保とする国内ABL(Asset Backed Loan)残高は年々増加傾向にあり、航空機・船舶・コンテナなどを扱う日本型オペレーティングリース市場も急成長している。融資に近い性質を持つファイナンスリース市場が伸び悩む一方で、物件価格の全額を支払う必要のない(=残価が設定されている)オペレーティングリース市場は拡大基調にある。 (図A参照)
すなわち、(1)企業の信用力・与信枠に影響を受けづらく、(2)残価設定により安価なアセット調達が可能で、(3)税メリットを得られる可能性もある、アセットファイナンスは資金の出し手・受け手双方に利があり、支持されていることを示している。特に、中古品でも資産価値が十分に存在する産業機械・輸送用機器・医療機器メーカーが、自ら金融サービス提供に乗り出せば、余剰資金を活用した新たな収益源を創出しうる可能性があるということだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授