(イ) 減価・時価の適時把握を通じた次世代リース型モデル
2つ目のマネタイズモデルは、機械の利用状況データ(稼働時間・負荷、メンテナンス履歴など)やリマーケティング関連データ(中古相場、二次リース経済性など)を組み合わせて、アセットの減価や時価をリアルタイムで把握し、これまでのリース商品では実現し得なかったイノベーションをもたらす。
Global Mobility Service(GMS)社は、フィリピンの所得が低いドライバーに対して、車両を提供している。レンタルに近い概念で月額利用料を徴収し、未払いが発生したら遠隔でエンジンを止め、GPSで車両位置を特定した上で回収を行う仕組みである。簡単に言えば、誰に貸すかを問題とせず、アセットがどれだけマネタイズできるかを意識したビジネスモデルである。その結果、通常のリース契約のように、特定時期にアセットを返却させる必要のないモデルを構築できるため、資産価値が最大化したタイミングで、リマーケティングを行える可能性をもたらす。
そもそも、リースビジネスは、リースアップ後のリマーケティングの巧拙が、収益最大化の上で重要だ。しかし、数年後の再販価値を事前に目利きすをるのは極めて難しい。消費税増税前の駆け込み需要のように、数年先にリースアップアセットが再販市場にあふれることが予見できたとしても、リース契約期間が硬直的であれば、結局リマーケティングで苦戦する。それほど、リース期間の硬直性は弊害が大きい。また、常にアセットの使用状況をモニタリングしながら減価を測定できれば、顧客からの徴収金額も可変にすることができる。オートリースでいえば、事故を起こさず、丁寧な運転を行い、それほど走行距離がないのであれば、あらかじめ決めておいたリース料より安価な料金徴収を行っても、レッサー、レッシーともに利が生まれよう。
すなわち、リース料、リース契約期間をフレキシブルにした貸し手、借り手双方にメリットをもたらすマネタイズ手段が、IoTにより実現可能になったということだ。最近、流行の「リカーリングモデル」を発展させたマネタイズ手段と捉えることもできる。
(ウ) 稼働可視化を通じた運転資金融資型モデル
視点を少し変えると、機械の稼働状況の把握により、顧客の経営状態が見えてくる。機械が安定稼働していれば、受注・業績が堅調と判断できる一つの材料になろう。銀行などのファイナンスプレイヤーの与信判断材料は、どんなに短くても月次の決算資料になるが、IoTを活用すればリアルタイムに業況を把握できる。
このような動きはネットビジネスでは既に発現しており、アマゾンは、販売履歴などに基づいて出店者の業績を把握し、無担保運転資金のサービス「Amazonレンディング」を提供している。また、リクルートも旅行予約サービスの「じゃらん」に参加する宿泊施設向けに、オンライン完結型の融資「Partnersローン」を提供すると発表した。グループの保有するビッグデータ解析・AIの活用によって与信モデルを構築し、事業主の運転資金ニーズに応えようとしている。
ここまで産業財メーカーが踏み込むべきかは議論が分かれるが、中堅中小企業を顧客としているプレイヤーであれば、一考の余地はある。世界的なカネ余りとはいえ、中堅中小企業には十分な資金が行き渡っていない。これら企業との継続的なつながりを金融サービスを通じて構築できれば、たとえ金融収益が得られなくとも、顧客基盤の充実を確実にもたらす。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授