産業財×IoTによるマネタイズ・イノベーション視点(2/4 ページ)

» 2017年12月11日 07時19分 公開

2、「モノ+コト売り」時代の新たなマネタイズ手段

 我が国製造業を支え続けたモノづくり力、これだけで勝負できる時代は終わりを告げようとしている。他社が数年かけても追い付かない特長を持った「ダントツ商品」で世界屈指の建機メーカーとなったコマツでさえ、製品力重視から、ソリューション力の強化に舵を切った。独シーメンスも、PLM(Product Lifecycle Management)やIoTプラットフォーム「MindSphere」など、自社機器の高付加価値化を志向した取り組みを積極化し、いまや世界有数のソフトウェアベンダーと評されるまで事業基盤を強化した。

 新興国メーカーの台頭などに伴い、製品自体で競争優位を維持できる期間が短くなっていることに加え、技術の成熟化により、知覚品質に差があるほどの製品開発が困難になっていることが、その背景にある。であるが故に、モノの魅力をコトで強化せざるを得なくなった。

 「モノ売り」から「モノ+コト売り」への進化は、売り手のマネタイズ手段を多様化させる。従来、産業財メーカーは、「所有価値の対価としての製品販売」と「使用価値を維持・回復させるためのアフターサービス」以外で収益を得ることは困難であった。この状況が、IoT技術の発展により一転した。

 IoT技術は、これまでメーカー側では把握し得なかった、いつ、どこで、どのように、どれだけモノが使われて、どの程度の成果を生み出し、その結果モノの状態がどうなっているのか、遠隔地からデータとして収集・可視化できる。最大の効用は、顧客との継続的なつながりを前提としたビジネスを創出できるようになったことにある。

 具体的には、(ア)使用価値の可視化を通じた成果課金型モデル、(イ)減価・時価の適時把握を通じた次世代リース型モデル、(ウ)稼働状況の可視化を通じた運転資金融資型モデル、といった3つの新たなマネタイズ手段の革新をもたらす。(図B参照)

 弊社と戦略的業務提携を結んでいるアスタミューゼ社の調査・分析結果を見ても、実際にこれらマネタイズ手段を駆使して創業しているベンチャー企業は増加傾向にあり、今後イノベーションが本格化する予兆が読み取れる。(図C参照)

(ア)使用価値の可視化を通じた成果課金型モデル

 このモデルは、コピー機のカウンター保守契約の仕組みを思い浮かべると分かりやすい。顧客は、コピー機をリースで調達し、何枚コピー機を利用したかに応じて、使用価値に応じた対価を支払う。コピー機は、トラブル頻度が高く、保守担当者の顧客訪問頻度が多い。そのため、使用価値(コピー枚数)を目で見て確認できる機会が多く、アナログ時代でもこのような成果課金型モデルを実現しやすかった。

 それが、IoT技術の発展により、同様のマネタイズ手段を導入するハードルが一気に下がった。独ケーザー・コンプレッサーは、生み出された圧縮空気の使用量で収入を得る「シグマ・エア・ユーティリティ」を提供している。顧客側は、初期投資不要で、使った圧縮空気の分だけ対価を支払えば良い。メーカー側は、保守サービス込みの契約のため収益性が高く、かつ顧客接点を保てるため継続受注を得られやすい利点がある。IoTの仕組みは、課金計算だけでなく、予兆保全サービスや製品改良へのフィードバックにも活用でき、ビジネスモデル全体のイノベーションをもたらした。

 さらに、大きな視野で使用価値を捉えると、事業構想がますます拡がる。もっとも分かりやすいのは、コマツの「スマートコンストラクション」であり、建機・ドローンなどを使った成果として得られる工期短縮・人件費低減効果を本質的な使用価値と定義している。同社は、その削減効果の一部を成果報酬的に得ようとしている。ここまでくると、使用価値の定義・線引きが難しくなるが、産業財メーカーが中長期的なマネタイズモデルを検討するうえで念頭に置くべき取り組みだろう。

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