成功するアイデアは単純で素直なもの――それを邪魔するのは“専門的な知識”NTT DATA Innovation Conference 2020レポート(2/2 ページ)

» 2020年02月25日 07時20分 公開
[山下竜大ITmedia]
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 当時のカメラは、デジタルではなかったので、51台のビデオレコーダーにそれぞれカメラをつないで撮影し、タイムコードをもとに映像を統合する仕組みだった。ビデオレコーダーが51台もあると、実験を始めのにスイッチを入れるだけでも大変だと学生は言い、 「ロボット研究の教授なのだから、まずスイッチを入れるロボットを作ればと学生に言われたのですが、ロボットを作るコストより、学生に頼んだ方が安いと答えました(笑)。1995年にはシーンの4次元(xyzt)デジタル化を実現し、2000年にかけてシーンを自由な視点で見ることができるようにしました。これが、EyeVisionにつながるストーリーとなりました」(金出氏)。

 今日、数多くの場面で使われている多数カメラ技術だが、最初の多数カメラ技術の論文は「このような不必要な数のカメラを使う高価な道具は使われない」という評価で掲載不可となった。「玄人考えの怖さです。それなら逆に行こうというので480台のカメラを使ったPlenopticドームというシステムを作った」(金出氏)。

 その新しい応用分野として、多方向から撮った顔表情データベースや、人のポーズを認識するプログラムの学習データを公開している。さらに、2025年に開催される大阪万博の6万人の来場者にカメラを持たせ、遠隔地から好きな人のカメラにアクセスして、万博会場を楽しむ仕組みとか、金出氏の多数カメラ技術のシナリオはどんどん膨らんでいる。

問題はあなたが解いてくれるのを待っている

 例えば「顔を認識する」という研究問題を考える。顔をどの方向から見ているか、光の当たり具合とかどんな環境か、対象とする人の顔のデータベースは新しいのか古いのかとか、さまざまな場合・条件がある。一方、そんな顔認識全体の問題の中には、正面顔だけを認識すればよい、複数方向からの画像を使えればうまくいくはずというようなサブ問題がある。

 金出氏は、「往々にして、研究者は漫然と全ての場合を含む問題を解きたい、そんなプログラムを作りたいと考えるのですが、それでは話が大きすぎてうまくいきません。もっとフォーカスする必要があります。研究において重要なのは解けて意味のある問題を構想することです。解決可能な多くの問題があるが、役に立つものはごくわずか。多くの有用な問題があるが、解決できるものはごくわずか。秘訣は大きく考え、小さく始めることが重要です」と語る。

 「良い問題を構想する重要性」に関しては多くの賢人が語っている。アインシュタインは、「1時間あったら、55分は問題について考え、5分で解決策を考える」と。

 「役立つというとそれは応用研究だという人がいます。それは間違いです。役立つというのは、便利、お金もうけ、応用という意味ではありません。“何が起こるか”という問題意識です。DNAの構造発見に至るストーリーを読めば、いかに問題意識が明白だったかが分かります。そんな基礎研究ほど役に立つものはありません。何の現実の問題が解きたいのかが分かっていれば、研究の方針、方向、重み付け、スピードをドライブできるのです」(金出氏)。

 「新しいこと自体に価値はなく、本当に動き、役に立つものが人を納得させる」しかし、研究の価値の予測は難しい。金出氏の述懐だ。1980年ごろ多くの研究者がパターンの追跡問題について研究していた。1枚目の画像中のパターンが2枚目の画像でどこにが異動したかを求める問題である。

 「Bruce Lucasという学生がいました。“自分の考えた手法で良い結果が出た。論文にしたい”と熱心に言うのですが、その手法は300年前から存在している手法と高校の数学レベルの導出の組み合わせで、私はその研究発表に対して懐疑的でした。でも、結局は彼の熱心さに押し切られる形で発表した。結果、その論文は1万2000以上の参照があり、Lucas-Kanade法と称されるビデオ処理の最も標準的アルゴリズム技術となりました。以来、“教授が良くないという研究は良い研究に違いない”とアドバイスしています」(金出氏)

 金出氏は、「イノベーションは、問題から出発するのであり、アルゴリズムから出発するのではありません。具体的な問題から出発して、差を生み出すシナリオを作り、焦点の定まった問題設定をし、結果で人を納得させるものです。“応用・システム研究”はもちろん、“理論的”な研究も、明確なシナリオが必要で、それが成功につながります。問題はあなたが解いてくれるのを待っているのです」というメッセージで講演を締めくくった。

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