3年目の覚悟、実体なきイノベーションからの脱却――みずほフィナンシャルグループ 大久保光伸氏デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)

みずほフィナンシャルグループは、金融APIを公開してスタートアップや異業種とつながり、新たな価値を創出するオープンイノベーションに力を入れてきた。渦中で指揮を執る大久保氏はどのように取り組んできたのか。

» 2020年02月13日 07時08分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 みずほフィナンシャルグループは、2019年からの「5カ年経営計画」の中で、1万9千人の人員削減と、130拠点の統廃合を発表した。経営資源配分のミスマッチを解消し、新たな顧客ニーズに対応することで「次世代金融への転換」を図るとしている。Fintechの進展により、顧客が銀行に求めるサービスは急速に変化している。休み時間に窓口やATMへ行くよりも、必要なときすぐにスマホで使える方がいい。他のFintechアプリと連携してより便利に使いたい、といった具合だ。

みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 シニアデジタルストラテジスト、Blue Lab CTO 大久保光伸氏

 みずほフィナンシャルグループは、金融APIを公開してスタートアップや異業種とつながり、新たな価値を創出するオープンイノベーションに力を入れてきた。渦中で指揮を執るのが、デジタルイノベーション部 シニアデジタルストラテジストの大久保光伸氏だ。

 大久保氏は2016年にみずほに入社し、翌年、シリコンバレーのベンチャーキャピタルWiL(WORLD INNOVATION LAB)と設立したイノベーションの拠点、Blue LabのCTOにも就任した。このような戦略をとったのは、銀行本体であれば必要とされる複雑な段取りを排し、既存事業とのカニバリズムをいとわず、新たなビジネス・プラットフォームを創出するためだ。Blue Labでの2年を、大久保氏自身はどう評価しているのだろうか。

 「イノベーションの啓蒙はできたものの、実際のビジネスにつなげるのは難しかった」――本音のインタビューが始まった。

イノベーションの現在地

 大久保氏は、「Blue Labによって研究開発や実証実験に係る予算が取りやすくなり、バッターボックスに立てるようになりました。しかし、ビジネスの本丸は銀行本体。Blue Labで生まれたシーズを銀行本体のビジネスにまで落とし込めたかというと、そこまでには至っていないというのが現状です」と、道半ばであると話す。ただ、しっかりと“成功の道筋”もつかんでいる。

 あるとき、新規開発するサービスにかかるインフラの見積もりとして、約10億円を提示されたという。大久保氏は、アーキテクチャから見直させてほしいと提案し、オンプレからクラウドに切り替え、かかったコストは年額500万円、5年で約9億5千万円の削減に成功した。

 クラウドを選んだのには、コストパフォーマンス以外にも理由がある。「新規ビジネスはすぐに成果が出ないケースも多い。スモールスタートができ、失敗したらすぐ止められるという選択肢を用意しておけば社内の合意を得られやすい」(大久保氏)。

 さらに、従量課金制のクラウドは、“成否が分からないプロジェクトへの投資”ではなく、“新規事業開発に係る経費”と捉えることもできる。「無駄遣いのリスクを粛々と抑えることで、いつの間にか新規事業に投資ができている状態を作ろうとしているんです」(大久保氏)

重要なのは管理職クラスの意識改革

 資金にも人材にも恵まれた大企業のイノベーションがなかなか進まない原因はどこにあるのか。一般的な日本企業では「経営者層の理解不足」を原因とするケースが少なくないだろう。しかし、みずほの経営陣に関しては、強い危機感のもと自分たちがすべきことを社内外に発信している。

 課題を抱えているのは、組織の中間にいる管理職クラスだという。担当部門のミッションを優先すれば視野が狭くなり、部門を越えた協力体制が築けず、縦割りを強めてしまう傾向があるという。横串で取り組めば効率的なIT調達においても、どの部門が費用を負担するのかといった議論が先立ち、うまくいかない。

 また、短期間での部署異動によって、長い目で仕事に取り組むことが難しい場合もある。「短期間で成果を」となれば、新たなことに取り組むような冒険をするよりも、すでに取り組んでいることで成果を出し、評価を得たいという気持ちになるのも分からなくはない。また、期が変わり、担当者も変われば、プロジェクト自体がストップしてしまうといったこともある。「今後の課題は、そういった人たちが自信をもってアクセルを踏み込めるようにルール・チェンジし、どう巻き込んで本業に昇華させていくかです」(大久保氏)

DXに踊らされる前にすべきこと

 社内でイノベーションやDXを推進する側の課題はどこにあるのか。大久保氏は、「ペーパーレスの延長でDXに取り組んでいる担当者が多いのでは」と指摘する。「業務をそのままデジタルに置き替えるのではなく、デジタルを活用して業務の流れを変えることが、DXの本質だと考えています。例えば付随業務において、外出の予定をスケジュールに入れておけば、交通費などの経費精算が自動的に行われる。個別サービスのAPI連携によって実現されるものですが、これは効率的ですよね」(大久保氏)

 銀行にとって、新規ビジネスを創出しやすくするには、デジタル活用だけではなく、パートナーとのオープンイノベーションも重要だ。そのためにはパートナーに求める条件を柔軟に変えていくことも必要だ。

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