今や、自動車業界は伝統的な事業モデルだけでは生き残れない。MADE革命に適応する異業種連携やスタートアップへの積極投資は避けて通れない。
自動車業界を取り巻く4潮流、MADE(Mobility services, Autonomous driving, Digitalization and Electrification)。OEMにとってもサプライヤーにとっても、MADE関連投資は増大の一途。新規参入組との異種格闘技に加え、米中貿易戦争や新型コロナウイルス感染症への対応もあり、自動車業界は嵐の真っ只中にある。この嵐をいかに切り抜けるかは、自動車業界各社にとって最重要課題。業界エコシステムの頂点に君臨してきたOEMでさえ例外ではない。
新規参入組というと電気自動車(EV)市場やライドヘイリング市場ばかりが注目されるが、実態はより深刻だ。大手テクノロジー企業はOEMソフトウェア市場への攻勢を強めている。
2020年6月、米Nvidiaと独Daimlerは車載コンピューティングとAIクラウド分野での協業を発表。2024年以降納車を開始する次世代モデル車両にNvidia製SoC(System on Chip)「Drive AGX Orin」を搭載し、OTA(Over-The-Air)/無線通信でのソフトウェア更新に対応。自動運転や運転支援(ADAS)、セキュリティなど広範囲での連携を見込む。消費者にとって魅力は尽きないが、OEMにとっては自前のソフトウェア開発の断念、ハードウェア製造を上回る高収益市場を新規参入組に明け渡すリスクの甘受を意味する。
今や、自動車業界は伝統的な事業モデルだけでは生き残れない。MADE革命に適応する異業種連携やスタートアップへの積極投資は避けて通れない。中でもスタートアップの自社エコシステムへの組み込みは、既存コア事業領域拡張の観点からも、新たな収益領域獲得の観点からも喫緊課題だ。貴重な利益プールを新規参入組に安易に明け渡すわけにはいかない。
事実、日独大手OEMやTier1サプライヤーは、大手テクノロジー企業との提携やユニコーン(評価額10億ドル超、非上場、設立10年以内)への出資だけでなく、アーリー〜ミドルステージのスタートアップ育成にも努めてきた。
ところが、これが難しい。2020年時点、世界には450社超のユニコーンが存在する。内、自動車業界関連は54社。追いかけるスーニコーン(soon to be unicorns)はおおよそ200社。(図A1参照)しかし、大手OEMやTier1サプライヤーがアーリー〜ミドルステージのスタートアップをスケールアップし、M&Aを通じて自社エコシステムに組み込むに至った例は驚くほど少ない。
スタートアップは、自動車の運転に例えるなら1速ギア。馬力は小さいながら、トルク大。創業チームの「0→1(ゼロイチ)」に賭ける熱量がトルク。タイヤを回し続ける力は「仕組み」ではなく外部調達資金。短距離走を誰よりも早く駆け抜けることに集中する。大手企業は6速ギア。トルクは小さいながら、馬力大。自社収益で投資資金を賄いつつ、「仕組み」でタイヤを高回転させ続ける長距離走。入っているギアがまるで違う。1速から6速にシフトチェンジすればエンスト必至。必要なのは中間ギアへのシフトチェンジ。スタートアップにはシフトアップ、大手企業にはシフトダウンが求められる。
換言すれば、スタートアップとの連携頓挫は大手OEMやTier1サプライヤーのリスク回避思考や意思決定構造にのみ責があるわけではない。スタートアップ側にもオペレーティングモデルの変容が求められる。1速ギアではさまざまな選択肢を機動的に試行することが肝要。朝令暮改を厭っていられない。だが、中間ギアでは熱量の届かない社員を動かす論理も必須。選択肢を絞り込まなければ、組織間コミュニケーションコストの増大に耐えられない。「誰をバスに乗せるか」(※1"get the right people on the bus")だけでは済まされないことが山ほどある。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授