「フードテック」攻略の鍵はサステナビリティと価値観の多様化(1/2 ページ)

「フード(=食)」と「テクノロジー」を掛け合わせたフードテック分野への投資が、近年活発化してきている。フードテック躍進の背景には、食分野における2つのメガトレンドがドライバーとして作用している。

» 2022年05月30日 07時09分 公開
[染谷将人ITmedia]
Roland Berger

 筆者はこれまで、異業種企業含む農業・食領域における新規事業戦略、食×サステナビリティ分野の調査・執筆など、食分野にかかわるコンサルティング・研究活動を行ってきた。他方、テクノロジー分野に関しては、食領域に加え、エンターテインメント分野における最新動向も研究している。本稿では、筆者のこれまでの経験を生かし、食分野で着目されるテクノロジー(フードテック)について論じてみたい。

巨大投資分野たるフードテック

 テクノロジーの進化は日々目まぐるしく、私たちの生活にとって最も身近な産業の1つである「食」の分野も例外ではない。

 「フード(=食)」と「テクノロジー」を掛け合わせたフードテック分野への投資が、近年活発化してきている。「フード(=食)」と「テクノロジー」を掛け合わせたフードテック分野への投資が、近年活発化してきている。2012年に全世界で約2,300億円だった投資額は、2019年には2兆円を突破した。(1)(注1: 出所「農林水産省フードテック研究会」)

 フードテックの裾野は広い。報道で耳する機会の多い「培養肉」「植物肉」といった代替プロテインはもちろん、バリューチェーン(生産・流通から小売・外食・調理)の各段階で新たなテクノロジーが続々と誕生している。

 フードテック躍進の背景には、食分野における2つのメガトレンドがドライバーとして作用している。

 1.サステナビリティ要請の高まり

 2.生活者の食に対する価値観の多様化

 これらトレンドを捉えることで、フードテックを活用したビジネスチャンス・投資機会も見えてくる。本記事ではそれぞれのドライバーと、そのとらえ方を紹介していく。

サステナビリティ要請が加速するフードテック活用

 昨今「SDGs」がニュースのみならずバラエティ番組でも取り上げられたり、小学校のカリキュラムでも組み込まれたりしているように、サステナビリティに対する注目度は日本でも日々高まっている。

 食分野もサステナビリティの課題は非常に裾野が広い。「地球環境」の視点で見ると、例えば農業・畜産業の温室効果ガス排出に占める影響度は非常に大きいことが知られている。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界の温室効果ガス排出量のうち、農業・畜産業は全産業の約12%を占めている(2017年)。中でも、牛を中心とする家畜の消化管内発酵(すなわち「ゲップ」)によるメタンガスはその約4割にのぼるという。これは、欧米を中心に環境問題に対する感度の高い生活者の食肉離れの一因ともなっている。

 論点は「生産」だけにとどまらない。世界では食品生産量の約3分の1が廃棄されており、「食品ロス」と呼ばれる大きな社会課題となっている。これには、発展途上国を中心としたコールドチェーンの未整備などによる輸送過程でのロスと、加工後の流通・消費段階でのロスの双方を含んでおり、サプライチェーン横断で解くべき課題が残されている。

 また、食品包装による環境負荷も課題である。コロナ禍においてオンラインフードデリバリーがますます普及しつつあるが、それに伴ってプラスチック容器やビニール袋といった環境負荷の高い包装資材の利用も増加している。フードデリバリーが今や食生活において欠かせないサービスである一方で、いかに環境負荷を軽減できるかはサステナビリティの側面で論点となっている。

 このようなサステナビリティ要請の高まりに呼応する形で、さまざまなフードテックが誕生している。例えば、「食品ロス削減」に絞ってみても、さまざまなソリューションが検討されている。

食品ロス削減を目指し、欧米企業を中心に、バリューチェーンの各工程でさまざまなソリューションが始動しつつある
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