例を挙げると、「必要以上につくらない」ようにするためのブロックチェーンによる取引情報のトレース、「廃棄食品を減らす」ためのセンサーや特殊包装技術を用いた鮮度管理や保存、「余剰食品を有効活用」するための3Dプリンタを用いた余剰食品の活用技術、といった具合だ。欧米の大手食品メーカーや食品小売、外食産業はこれらテクノロジーを積極的に取り込んでいる。
生活者の価値観の多様化も、フードテックの出現・活用を後押ししている。
そもそも、食に関する生活者の価値観は時代の変化とともに多様化してきた。もともとは「生きるための活動」という意味合いが強く、健康維持・増進が食の主目的であった。それが時代とともに「おいしさ」や「食の安全」に対する意識の高まり、直近では「ライフスタイルの表現」や「人とのつながりの手段」といった意味合いも重要となった。結果、一人一人の食に対する価値観・嗜好性はますます広がりを見せてきている。
それと呼応する形で、飲料・食品メーカー、食品小売、外食といった食品関連事業者は「パーソナライゼーション」を強化してきた。つまり、多様化する消費者に対応できるよう、一人一人にあった食を提案しようとする動きだ。さまざまなパーソナライゼーション関連サービスも誕生。欧米の大手企業のフードテックへの取り組みも目立っている。
興味深いのは、昨今では「食の楽しみの多様化」は物理的な食事・空間にとどまらないという点だ。「エンターテインメントとしての食」はデジタル空間まで広がりを見せており、VR空間上の体験に即した「香り」が出るデバイスなど、デジタル空間に食体験をかけ合わせた事業も登場してきている。
以上で見てきたように、サステナビリティに関する要請への対応や、多様化する顧客へのパーソナライゼーションを目的とするフードテックは、今後も広がりを見せる可能性が高い。食産業(飲料・食品メーカー、食品小売、外食など)のみならず、消費財、ヘルスケア、化学・素材、テクノロジーなどの周辺業界にとってもフードテックは間違いなく注視すべき分野の1つだ。
ただし、戦略なく「出玉に飛びつく」ことは避けたい。自社として目指す事業領域・ターゲット・提供価値を描いた上で、どこまで自前で・どこまで外部活用するのかといったオープン・クローズの見極めと共に、具体的な投資対象を検討されてはどうか。
染谷将人(Masato Someya)
ローランド・ベルガー シニアプロジェクトマネージャー / 東京オフィス
東京大学理学部物理学科、同大学院理学系研究科物理学専攻修了。メディア・エンターテインメント、消費財・小売り、食品・飲料、サステナビリティを中心とした領域において、さまざまな戦略プロジェクトを手掛ける。東京オフィスの消費財・流通プラクティス、エンターテインメント・プラクティスのコアメンバー。
Copyright (c) Roland Berger. All rights reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授